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021. 奇跡
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門から少しばかり離れると、少しずつ民家や畑が目に付くようになった。
「あそこにあるちょっと大きめの建物は、役所や病院、その他いろんな公共のものが交じり合った施設なんだ。
とりあえず、ここに初めて来た者はあそこの役所に行くんだ。」
「ここには総理大臣とか王様みたいな人はいるのん?」
「そういうのはいないけど、ここにいる年数が一番長い者が長老と呼ばれてる。
まぁ、リーダーみたいなもんだな。
今の長老はイルドクさんだ。」
羊はジェリコからこのドアーズのことをいろいろと教わりながら役所を目指した。
「着いたぞ。あそこで住人登録をするんだ。」
「あれ?役所の隣のあれって…」
羊は、四角い石の並ぶ場所を指差した。
「あぁ、あれなら墓場だ。」
「やっぱり…でも、なんで二つにわかれてるのん?」
「こっちは病気や事故、めったにないが喧嘩などによって死んだ者達の墓…そしてこっちは、このドアーズに来たことを受け入れられなくて自ら命を断った者達の墓だ…」
隣り合った二ヶ所の墓場にはほぼ同数の墓石が建てられていた。
「そんな…」
「だからさっきも言っただろ。
運命を受け入れて、早めに諦める事だ。
あんたはもう二度と元の世界には戻れない…
家族や友人にも二度と会えない。
そのことを早く受け入れるんだ!
そうでなきゃ…あんたもあっちに入ることになっちまうぜ。」
羊の脳裏に浮かぶのは、ついさっきまで一緒だった世夜、そして家族や亀の顔…
(もう誰とも二度と会えないのねん…)
羊の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた…
(皆、さよならなのねん…)
羊は役所で住人登録を済ませた。
といっても、ここに機械はない。
ただ、台帳に個人データやここへ来た日を記してもらうだけだ。
「よし、これであんたもドアーズの住人だ。
さ、皆に頼んで家を建ててもらうように手配するよ。
出来るまでは俺ん家にいれば良い。」
「ありがとうなのねん。」
町には、現在、数百人の人々が暮らしているらしい。
食べるものはすべて自給自足だ。
ここには、元々、魚や食べられる木の実等があったそうだ。
そして、外からの住人が増えるに連れ、それらは改良されたり加工されるようになり、今ではけっこうな種類の食料があるとのこと。
ドアーズは、皆が協力して生きている世界なのだ。
羊は、特別な技術を持っていなかったため、ごく一般的な作業員になった。
農作物の手入れや、魚や貝の捕獲、さらには木の伐採等、いろんなことを学んだ。
気が付くと、羊がドアーズに来て二年の月日が流れていた。
羊はここでの暮らしにもすっかり慣れ、新しい友達も出来た。
この二年の間に外の世界からここに来た者はおらず、亡くなった者もなく、一人の赤ん坊が生まれていた。
「あそこにあるちょっと大きめの建物は、役所や病院、その他いろんな公共のものが交じり合った施設なんだ。
とりあえず、ここに初めて来た者はあそこの役所に行くんだ。」
「ここには総理大臣とか王様みたいな人はいるのん?」
「そういうのはいないけど、ここにいる年数が一番長い者が長老と呼ばれてる。
まぁ、リーダーみたいなもんだな。
今の長老はイルドクさんだ。」
羊はジェリコからこのドアーズのことをいろいろと教わりながら役所を目指した。
「着いたぞ。あそこで住人登録をするんだ。」
「あれ?役所の隣のあれって…」
羊は、四角い石の並ぶ場所を指差した。
「あぁ、あれなら墓場だ。」
「やっぱり…でも、なんで二つにわかれてるのん?」
「こっちは病気や事故、めったにないが喧嘩などによって死んだ者達の墓…そしてこっちは、このドアーズに来たことを受け入れられなくて自ら命を断った者達の墓だ…」
隣り合った二ヶ所の墓場にはほぼ同数の墓石が建てられていた。
「そんな…」
「だからさっきも言っただろ。
運命を受け入れて、早めに諦める事だ。
あんたはもう二度と元の世界には戻れない…
家族や友人にも二度と会えない。
そのことを早く受け入れるんだ!
そうでなきゃ…あんたもあっちに入ることになっちまうぜ。」
羊の脳裏に浮かぶのは、ついさっきまで一緒だった世夜、そして家族や亀の顔…
(もう誰とも二度と会えないのねん…)
羊の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた…
(皆、さよならなのねん…)
羊は役所で住人登録を済ませた。
といっても、ここに機械はない。
ただ、台帳に個人データやここへ来た日を記してもらうだけだ。
「よし、これであんたもドアーズの住人だ。
さ、皆に頼んで家を建ててもらうように手配するよ。
出来るまでは俺ん家にいれば良い。」
「ありがとうなのねん。」
町には、現在、数百人の人々が暮らしているらしい。
食べるものはすべて自給自足だ。
ここには、元々、魚や食べられる木の実等があったそうだ。
そして、外からの住人が増えるに連れ、それらは改良されたり加工されるようになり、今ではけっこうな種類の食料があるとのこと。
ドアーズは、皆が協力して生きている世界なのだ。
羊は、特別な技術を持っていなかったため、ごく一般的な作業員になった。
農作物の手入れや、魚や貝の捕獲、さらには木の伐採等、いろんなことを学んだ。
気が付くと、羊がドアーズに来て二年の月日が流れていた。
羊はここでの暮らしにもすっかり慣れ、新しい友達も出来た。
この二年の間に外の世界からここに来た者はおらず、亡くなった者もなく、一人の赤ん坊が生まれていた。
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