Gift

010. 頂上

５

＊



 「す、すごいっ！」



ゴードンたちは、屋敷の中を見渡し、言葉を失った。
 屋敷の中にはチリひとつなくなり、どこもかしこもピカピカになっていた。



 「あぁ、良い汗かいた…」

ライアンは、満足げにそう言うと、滴り落ちる汗を拭った。



 「ど、どうもありがとう！」

 見知らぬ男が、ライアンの元に駆け寄り、涙を流す。



 「……あなたは？」

 「私はこの屋敷の主です。
 私は昔からとにかくだらしなく、片付けがすごく苦手でした。
そのせいか使用人たちもどうしようもなくだらしない者たちばかりで、いつの間にかこの屋敷は汚屋敷となってしまったのです。
その惨状に怒った妻は、魔法使いを雇って私に呪いをかけ、私はドラゴンに変身させられてしまったのです。
この屋敷がピカピカにならない限り、私は人間に戻ることは出来ません。
ですから、もう私は一生ドラゴンのままだと諦めていたのですが、あなたのおかげで人間に戻ることが出来ました。
 本当にどうもありがとうございます！」

 男はライアンの手を握り、熱い涙を流した。



 「あ、あの…それで、竹箒は…」

 「あぁ、そうでした…待ってて下さいね。」

 男が竹箒に近付くと、事も無げに箒を手に取った。



 「さぁ、どうぞ。」

 「あ、ありがとうございます！」

オーギュストの箒を手に、今度はライアンが熱い涙を流した。



 「これは、なんとかいう名工の作った箒らしいです。
 心を入れ替えて、真面目に掃除しろ！と妻が怒って庭に投げつけたのです。
それでも、私も使用人も掃除をしなかったものですから、妻もキレてしまいましてね…
ま、その妻ももうかなり昔に亡くなりました。
これからはひとりで楽しく生きていこうと思います。」



そんな主の独白も、ライアンの耳には届いていなかった。
オーギュストの箒が手に入ったことで、ライアンは感動し過ぎてもはや何も考えられなかった。
 夢に浮かされたままのライアンを引っ張り、三人は、そっと頂上を後にした。