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偽り
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『ところで、どこに向かってるんだ?』
「特にどこって決まってるわけじゃないが…
とにかく、南だ!」
『家に帰るんじゃなかったのか?』
「もちろん帰るさ。
だが、寄り道してもかまわねぇからな!」
『なるほど…それで今までは寒い所にいたから、今度は暖かい所へ行きたいということだな。
実におまえらしい発想だ。』
「はいはい、どうせ俺は馬鹿で単純でわかりやすい行動しか出来ませんよ。」
『ほぉ…自分でもわかってるんだな。』
思わず振り上げそうになった拳をジュリアンは必死の想いで収めた。
(こいつは、殴った所でどうにもなりゃしない。
石の精なんだからな!
我慢だ。無視だ。ほっとけ、ほっとけ、こんな奴の言うことなんて…)
ジュリアンとエレスはあれから南を目指し、あてのない旅をしていた。
もちろん、傍目からはジュリアンしか見えない。
「おまえ…どうしてそんな風に人間みたいに歩くんだよ。
石の中に入ってたらどうなんだ?
その方が楽だろ?」
『これは私の実体ではないのだから、いくら歩こうが疲れるなんてことはない。
私は、おまえのためにこうして現れてやってるんだぞ。
一人で旅をするのも退屈だろうとの配慮からだ。』
「そんな配慮はいらん!
おまえがいると、逆に気が散るから戻れよ。」
『おまえがそう言うのならそうしてやるが…』
その言葉を言い終えると同時に、エレスの姿はその場からかき消えた。
(くっそー!こんなもん、掘り出さなきゃ良かったぜ!)
ジュリアンは心の中でそんな悪態を吐きながら、首にかけた皮袋をぎゅっと握り締めた。
歩き続けて夕暮れ近くになり、ようやく小さな町が見えてみた。
ジュリアンは、そこで一軒の宿をみつけ、扉に手をかける。
すると、それと同時に宿の中から出て来た男と鉢合わせをしてしまった。
「いってー…」
男にぶつかった反動で、ジュリアンは後ろに尻餅をつく格好で倒れた。
「あ…!すまない。
大丈夫か?」
男の分厚い手の平が、ジュリアンの目の前に差し出される。
「あぁ…ありがとう。大丈夫だ…」
ジュリアンが立ちあがると、宿の中から感情的な女の声が聞こえて来た。
「ハリーの馬鹿!!
あんたなんて、大っ嫌い!」
「あぁ、俺だっておまえのことなんて大っ嫌いさ!
さっさとケネスの嫁になってどこへでも行っちまえ!
……さ、行こうぜ!」
「い、行くって、どこへ?」
「さぁな…!」
男は吐き捨てるように、そう言った。
「特にどこって決まってるわけじゃないが…
とにかく、南だ!」
『家に帰るんじゃなかったのか?』
「もちろん帰るさ。
だが、寄り道してもかまわねぇからな!」
『なるほど…それで今までは寒い所にいたから、今度は暖かい所へ行きたいということだな。
実におまえらしい発想だ。』
「はいはい、どうせ俺は馬鹿で単純でわかりやすい行動しか出来ませんよ。」
『ほぉ…自分でもわかってるんだな。』
思わず振り上げそうになった拳をジュリアンは必死の想いで収めた。
(こいつは、殴った所でどうにもなりゃしない。
石の精なんだからな!
我慢だ。無視だ。ほっとけ、ほっとけ、こんな奴の言うことなんて…)
ジュリアンとエレスはあれから南を目指し、あてのない旅をしていた。
もちろん、傍目からはジュリアンしか見えない。
「おまえ…どうしてそんな風に人間みたいに歩くんだよ。
石の中に入ってたらどうなんだ?
その方が楽だろ?」
『これは私の実体ではないのだから、いくら歩こうが疲れるなんてことはない。
私は、おまえのためにこうして現れてやってるんだぞ。
一人で旅をするのも退屈だろうとの配慮からだ。』
「そんな配慮はいらん!
おまえがいると、逆に気が散るから戻れよ。」
『おまえがそう言うのならそうしてやるが…』
その言葉を言い終えると同時に、エレスの姿はその場からかき消えた。
(くっそー!こんなもん、掘り出さなきゃ良かったぜ!)
ジュリアンは心の中でそんな悪態を吐きながら、首にかけた皮袋をぎゅっと握り締めた。
歩き続けて夕暮れ近くになり、ようやく小さな町が見えてみた。
ジュリアンは、そこで一軒の宿をみつけ、扉に手をかける。
すると、それと同時に宿の中から出て来た男と鉢合わせをしてしまった。
「いってー…」
男にぶつかった反動で、ジュリアンは後ろに尻餅をつく格好で倒れた。
「あ…!すまない。
大丈夫か?」
男の分厚い手の平が、ジュリアンの目の前に差し出される。
「あぁ…ありがとう。大丈夫だ…」
ジュリアンが立ちあがると、宿の中から感情的な女の声が聞こえて来た。
「ハリーの馬鹿!!
あんたなんて、大っ嫌い!」
「あぁ、俺だっておまえのことなんて大っ嫌いさ!
さっさとケネスの嫁になってどこへでも行っちまえ!
……さ、行こうぜ!」
「い、行くって、どこへ?」
「さぁな…!」
男は吐き捨てるように、そう言った。
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