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side 香織

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「そうかもしれませんね……何もわかりませんでした。
 当時の私は、とにかく家の手伝いをしないといけないって気持ちだけは強かったです。
だから、掃除や片付けは率先してやってました。
 料理は何も出来ませんでしたから、お姉ちゃんが作ってくれてました。
だけど、母さんが退院して来てしばらく経った頃から、お姉ちゃんは一切家のことをしなくなって……
それで、私が作るようになったんです。
 中学に入った頃だったでしょうか……
でも、私はそれまで料理を作ったこともあまりありませんでしたから、うまくは作れず、いつもまずいと言われ、料理をぶちまけられたこともありました。
それでも、私しか作る者はいない。
だから、仕方なく作ってて……そんな事情から一時は料理が大嫌いでした。」

 「そうですか。
ご苦労なさったんですね。」

 「苦労というよりも……
その時は、もう幸せっていうものが私には無縁のものみたいに感じてました。
だから、逆に言えば、ちょっとした不運には特に何も感じなくなってたんですよ。
 学校でのいじめみたいなものも少しありましたが、全く平気でした。
 家の方がずっと辛くて怖い場所でしたからね……」

 堤さんは、何も言わず、ただじっと私のことをみつめてらっしゃった。



 「姉が家を出て行った時は、ほっとしました。
 酷い女でしょう?
でも、私は姉が怖かった……
母も父も怖かったけど、なぜだか姉が一番怖かったんです。
 姉は、いつも苛々してて、その苛々を私によくぶつけてましたから。
でも、最近やっと気付いたんです。
 姉は、母の事故を身近で見ていた。
 中学生という多感な時期に、姉はそれで大きなショックを受けてたんでしょうね。
だからこそ、あんな風に変わってしまった……」

 「……篠宮さん…その日、お姉さんはお母さんとご一緒だったんですよね?」

 「ええ、そうです。」

 堤さんは、なにか言いたげに……でも迷ってらっしゃるのか、落ち着かない様子でお茶を飲み干された。




 「……おかしなことを言ってすみません。
もしかしたら……お母さんはお姉さんをかばって事故に遭われたんじゃないでしょうか?」

 「……え?」

 考えてもみなかった堤さんの言葉に、私は全身が総毛立つのを感じた。 
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