276 / 308
side 香織
6
しおりを挟む
「そうかもしれませんね……何もわかりませんでした。
当時の私は、とにかく家の手伝いをしないといけないって気持ちだけは強かったです。
だから、掃除や片付けは率先してやってました。
料理は何も出来ませんでしたから、お姉ちゃんが作ってくれてました。
だけど、母さんが退院して来てしばらく経った頃から、お姉ちゃんは一切家のことをしなくなって……
それで、私が作るようになったんです。
中学に入った頃だったでしょうか……
でも、私はそれまで料理を作ったこともあまりありませんでしたから、うまくは作れず、いつもまずいと言われ、料理をぶちまけられたこともありました。
それでも、私しか作る者はいない。
だから、仕方なく作ってて……そんな事情から一時は料理が大嫌いでした。」
「そうですか。
ご苦労なさったんですね。」
「苦労というよりも……
その時は、もう幸せっていうものが私には無縁のものみたいに感じてました。
だから、逆に言えば、ちょっとした不運には特に何も感じなくなってたんですよ。
学校でのいじめみたいなものも少しありましたが、全く平気でした。
家の方がずっと辛くて怖い場所でしたからね……」
堤さんは、何も言わず、ただじっと私のことをみつめてらっしゃった。
「姉が家を出て行った時は、ほっとしました。
酷い女でしょう?
でも、私は姉が怖かった……
母も父も怖かったけど、なぜだか姉が一番怖かったんです。
姉は、いつも苛々してて、その苛々を私によくぶつけてましたから。
でも、最近やっと気付いたんです。
姉は、母の事故を身近で見ていた。
中学生という多感な時期に、姉はそれで大きなショックを受けてたんでしょうね。
だからこそ、あんな風に変わってしまった……」
「……篠宮さん…その日、お姉さんはお母さんとご一緒だったんですよね?」
「ええ、そうです。」
堤さんは、なにか言いたげに……でも迷ってらっしゃるのか、落ち着かない様子でお茶を飲み干された。
「……おかしなことを言ってすみません。
もしかしたら……お母さんはお姉さんをかばって事故に遭われたんじゃないでしょうか?」
「……え?」
考えてもみなかった堤さんの言葉に、私は全身が総毛立つのを感じた。
当時の私は、とにかく家の手伝いをしないといけないって気持ちだけは強かったです。
だから、掃除や片付けは率先してやってました。
料理は何も出来ませんでしたから、お姉ちゃんが作ってくれてました。
だけど、母さんが退院して来てしばらく経った頃から、お姉ちゃんは一切家のことをしなくなって……
それで、私が作るようになったんです。
中学に入った頃だったでしょうか……
でも、私はそれまで料理を作ったこともあまりありませんでしたから、うまくは作れず、いつもまずいと言われ、料理をぶちまけられたこともありました。
それでも、私しか作る者はいない。
だから、仕方なく作ってて……そんな事情から一時は料理が大嫌いでした。」
「そうですか。
ご苦労なさったんですね。」
「苦労というよりも……
その時は、もう幸せっていうものが私には無縁のものみたいに感じてました。
だから、逆に言えば、ちょっとした不運には特に何も感じなくなってたんですよ。
学校でのいじめみたいなものも少しありましたが、全く平気でした。
家の方がずっと辛くて怖い場所でしたからね……」
堤さんは、何も言わず、ただじっと私のことをみつめてらっしゃった。
「姉が家を出て行った時は、ほっとしました。
酷い女でしょう?
でも、私は姉が怖かった……
母も父も怖かったけど、なぜだか姉が一番怖かったんです。
姉は、いつも苛々してて、その苛々を私によくぶつけてましたから。
でも、最近やっと気付いたんです。
姉は、母の事故を身近で見ていた。
中学生という多感な時期に、姉はそれで大きなショックを受けてたんでしょうね。
だからこそ、あんな風に変わってしまった……」
「……篠宮さん…その日、お姉さんはお母さんとご一緒だったんですよね?」
「ええ、そうです。」
堤さんは、なにか言いたげに……でも迷ってらっしゃるのか、落ち着かない様子でお茶を飲み干された。
「……おかしなことを言ってすみません。
もしかしたら……お母さんはお姉さんをかばって事故に遭われたんじゃないでしょうか?」
「……え?」
考えてもみなかった堤さんの言葉に、私は全身が総毛立つのを感じた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる