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side 香織

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別れて、電車に乗ったら、さっきのお金のことで智君からメールが来た。
たくさん入ってたから驚いたみたいで、今度返すとかなんとか言うから、そんなこと言うならもう会わないよって、私はまた強気の言葉を返した。

 確かに、5万円は私にとっても大金だ。
 今まで、お見舞いにそんなに贈ったことはもちろんない。
そういう付き合いは最小限にしていたし、出すお金もいつも最低ランクの金額だった。
だけど、少しでも智君の助けになるなら、惜しいなんて思わなかった。



 私も智君と同じ……
いや、同じなんて言ったら、智君に悪いかな。
 私はただお金を貯めるために働いてたんだから。
でも、家族の誰かが入院する時の大変さは知ってる。
 私には、あの時、父さんやお姉ちゃんがいたけど、智君はなにもかもひとりでやらないといけないんだもん。
どれだけ大変かは容易に想像出来る。


ふと、スマホを見ると、家からの着信が入っていた。
 母さんは、滅多に電話なんてかけてこないのに……
そう思うと、急に胸騒ぎがしてきて、連結部に移動して電話をかけた。


 「母さん…ごめんね。
 電話、今、気付いた。
なにかあったの?」

 「何かって……あんたがあんまり遅いもんだから心配してかけたんだよ。」

 「あ、そうなの?
 今日は、友達がお酒を飲みたいって言ったもんだから…
あ、私はそんなに飲んでないし、もうじき着くから……」

 「そうかい。
じゃあ、気を付けて帰って来るんだよ。」

 「うん、わかった。」



 適当な嘘で取り繕い、腕時計を見ると、もう11時半を回っていて、一瞬、見間違いかと思う程だった。
 今までこんなに遅く帰ったことはなかったから、母が心配するのも当然だ。
うっかりしてたら電車もなくなるところだったと気付いて、冷や汗をかいた。



 初めての「時を忘れる」という体験だった。
それも当然だ……今日は、あんな思いがけないことがあったんだもん…
思い出すと、恥ずかしさと嬉しさで身体全体が熱くなった。
しかも、その後には智君の複雑な事情も聞かされた。
まだ他の誰にも話してないっていう事情を……



今日は、身体だけじゃなく精神的にも深く智君と繋がれた気がして……
そのことが、私に大きな自信のようなものを与えてくれた。 
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