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ゲーム機(てんびん座)

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「ふふふ……」

私はトイレの個室で思わず声を出して笑ってしまった。
画面でひょこひょこと動いているのは、四人のキャラクター。
女と男が各二人。
このゲームには、キャラクターが登録出来るのだけど、残念ながらそれはたったの四人だけ。
本当ならもう少し欲しい所なのだけど、そういうルールだから仕方がない。
ストーリーは至って簡単なもの。
リサ、ノゾミ、浅野、岡部の四人は、一人ずつ魔女に立ち向かって行く。
魔女は、魔法が使えてどんなことでも出来るから、ただの人間である四人には絶対に負けない。
つまりは、結果のわかりきった面白くもなんともないゲームなのだ。



そして…このゲーム機を持っているのはこの世できっと私だけ。



「一気に…っていうのは面白くないわよね…
一ヶ月くらいかけて、じわじわいこう。
まずは…岡部ね…」







「君、これ曲がってるじゃないか!」

「えっ!?」

「君はたかがコピーと思ってるのかもしれないが、そういう地味な仕事にこそその人間の仕事に対する姿勢が見えるんだぞ!
君は元々何にでもだらしないんじゃないか?
だからそんなにぶくぶく太るんだ。
顔の作りが良くないのは仕方ないにしろ、体型は自分の責任だろう!」

上司の岡部はいつもこんな調子だった。
取るに取らないことをみつけては、その事を執拗に責めつける。
しかも、仕事のことにかこつけて、私の容姿のことを馬鹿にするのだ。
若くて可愛い女子社員なら多少のミスをしても笑って許すくせに、私のことは目の仇にしている。



岡部が魔女の前に現れた。
すると「まほう」と書かれたコマンド入力画面が現れた。
私は少し考えて、タッチペンを使いそこに魔法を書きこむ。

「会社の階段からつるっと滑って首の骨ポキッ!の魔法」

次に魔法の発動時間の入力画面が現れた。
即時実行か、時間指定が選べる。



(そうね…私もその場を見届けたいから…今から5分後にしとこうっと。)

私は時間を5分後にセットして、トイレを出て職場に戻った。



「じゃあ、そういうことだから…行って来る。
……なんだ、君……サボってないでちゃんと持ち場に着きたまえ。」

「はい、すみません。」

顔を会わせる度に小言を言う岡部に、私は素直に頭を下げ、その姿を見送った。



「あ…あぁーーーーっ!」

私が頭を上げるかあげないかのうちに、岡部は階段から滑り落ち、岡部の絶叫とごろごろという物のぶつかる音があたりに響いた。
すぐに、職場から数人の人々が飛び出し、階段から転げ落ちた岡部の姿を見て真っ青になっていた。
岡部の首は笑ってしまいそうな程おかしな具合に折れ曲がり、私は絶大な魔法の効果に一人ほく笑む。 
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