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紙風船(乙女座)
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その通りだ。
父も自ら命を断ってしまったし、私は幸い身体はなんともなかったけど小さい頃からずっとお金には苦しめられてきた。
楽しい事がなかったわけではないけれど…それはきっと人並みの幸せを知らないから、ごく当たり前のことを楽しい事だと錯覚していただけなのかもしれない…
他人から見れば私の人生なんてきっと一つの楽しみもない悲惨なものなんだ…
夜になると、このあたりが本当に静かなことが良くわかった。
まるでこの世に生き残ったのは、私一人っきりなのではないかと思う程の静寂。
部屋の中で蝋燭に明かりを灯す。
ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら私は思った。
……これで、すべてが終わる…
苦しかった日々も寂しい日々も、皆、終わるんだ…と。
惨めな人生だった筈なのに、それでも未練なのか涙が毀れた。
いや、未練ではなく悔しさか…それとも、恐怖?
私は瓶の中の薬をペットボトルのお茶でめちゃめちゃに流しこんだ。
いろいろ考えると手が止まってしまいそうだったから…
薬は私の体内へ流れて行った……もう引き返せない…
祖母は近所付き合いもほとんどなかった。
近所には民家自体がそれほどない。
祖母が亡くなってからこの家は無人だと思われている。
私の友人にもこの家のことを知る者はいないから、きっと私が発見されるのはずっと先のことだろう。
そう思うと寂しいような気持ちが半分…もうそんなことはどうでも良いような気持ちが半分だった。
だんだんと意識が朦朧として来た…
それに逆らわずこのまま静かにしていれば…それですべては終わる……
沈んでいく意識を誰かの手が引き戻した。
そこに立っていたのは、粗末で地味な着物を着た少女…
田舎の子供にしてもやけに古めかしい恰好をしている。
でも…そんなことはどうでも良い…
少女を一瞥し再び目を閉じた私の肩を、少女がまた叩く。
「やめて…!」
もつれる口でなんとかそう言って手を振り払った。
しかし、少女は同じ事を繰り返す。
「あんた…一体……」
子供は懐から大事そうになにかを取り出し、それに息を吹き込んだ。
膨らんだのは色褪せた紙風船だった。
所々に紙が貼ってあるのは破れたのを直した跡なのか?
少女は私に向かって少し恥ずかしそうに微笑み、紙風船を宙に放り投げた。
ぽーん、ぽーん…
上がっては落ちる紙風船を少女は捉え、またそれを撥ね上げる。
そんな動作を繰り返す度に、少女の顔は次第に明るくなっていく。
その間にも少女は私の方をちらちらと盗み見ていた。
父も自ら命を断ってしまったし、私は幸い身体はなんともなかったけど小さい頃からずっとお金には苦しめられてきた。
楽しい事がなかったわけではないけれど…それはきっと人並みの幸せを知らないから、ごく当たり前のことを楽しい事だと錯覚していただけなのかもしれない…
他人から見れば私の人生なんてきっと一つの楽しみもない悲惨なものなんだ…
夜になると、このあたりが本当に静かなことが良くわかった。
まるでこの世に生き残ったのは、私一人っきりなのではないかと思う程の静寂。
部屋の中で蝋燭に明かりを灯す。
ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら私は思った。
……これで、すべてが終わる…
苦しかった日々も寂しい日々も、皆、終わるんだ…と。
惨めな人生だった筈なのに、それでも未練なのか涙が毀れた。
いや、未練ではなく悔しさか…それとも、恐怖?
私は瓶の中の薬をペットボトルのお茶でめちゃめちゃに流しこんだ。
いろいろ考えると手が止まってしまいそうだったから…
薬は私の体内へ流れて行った……もう引き返せない…
祖母は近所付き合いもほとんどなかった。
近所には民家自体がそれほどない。
祖母が亡くなってからこの家は無人だと思われている。
私の友人にもこの家のことを知る者はいないから、きっと私が発見されるのはずっと先のことだろう。
そう思うと寂しいような気持ちが半分…もうそんなことはどうでも良いような気持ちが半分だった。
だんだんと意識が朦朧として来た…
それに逆らわずこのまま静かにしていれば…それですべては終わる……
沈んでいく意識を誰かの手が引き戻した。
そこに立っていたのは、粗末で地味な着物を着た少女…
田舎の子供にしてもやけに古めかしい恰好をしている。
でも…そんなことはどうでも良い…
少女を一瞥し再び目を閉じた私の肩を、少女がまた叩く。
「やめて…!」
もつれる口でなんとかそう言って手を振り払った。
しかし、少女は同じ事を繰り返す。
「あんた…一体……」
子供は懐から大事そうになにかを取り出し、それに息を吹き込んだ。
膨らんだのは色褪せた紙風船だった。
所々に紙が貼ってあるのは破れたのを直した跡なのか?
少女は私に向かって少し恥ずかしそうに微笑み、紙風船を宙に放り投げた。
ぽーん、ぽーん…
上がっては落ちる紙風船を少女は捉え、またそれを撥ね上げる。
そんな動作を繰り返す度に、少女の顔は次第に明るくなっていく。
その間にも少女は私の方をちらちらと盗み見ていた。
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