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マグカップ(双子座)

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(まぁ……)

私は、雑貨屋で一際異彩を放つマグカップを手に取った。



「それが、お気に召しましたか?」

「え……いえ、別にそういうわけでは…」

店員に声をかけられ、私は慌ててそれを棚の上に戻した。
私のそんな様子を、店員はどこか馬鹿にしたような顔で微笑み、それが私にはやけに癪に障り、私は、今置いたばかりのマグカップを再び手に取った。




「やっぱり、これをいただきます。」







買って来たマグカップを目の前にして、私は小さな溜め息を吐いた。



今日は朝からどうも調子の良くない一日だった。
疲れていたせいか、手が滑り、私は普段使ってるマグカップを割ってしまった。
それ程気に入っていたものでも高価なものでもなかったが、朝から食器を割るというのはなんとなく気分の良くないものだ。
そんな気持ちをどこかでひきずっていたのか、職場でも何度かつまらない失敗をして叱られた。
そして、帰りに立ち寄った店でこんなおかしなマグカップを買ってしまった。
 夜の闇のように真黒なマグカップを…



「あら…やけに愛想のないものを買って来たのね…」

「母さん!起きて来て大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。
無理さえしなければ、家のことくらい出来るんだから心配しないで。」

母は元々身体が弱い。
五年前に詐欺に遭い、家屋敷を奪われてからというもの、母の体調はますます良くなくなった。
責任を感じた父が自ら命を断った直後は、母もそのまま逝ってしまうのではないかと思う程弱りきり、その時に比べればずいぶんとマシにはなったが、やはり、今でも寝込む事が多い。
そのため、私が家族を支えるために働いている。
私達は今までとは比べ物にならない粗末な家に住み、日々ギリギリの生活をしている。
そんな時、弟を寄宿舎制の学校に入れたいと母に相談された。
成績の優秀な弟には奨学金が支給される。
しかし、その他の一切合財が無料になるわけではない。
これからは弟の仕送りのために、今までよりももっとお金を稼がなければならない。
手っ取り早いのはやはり夜の仕事だが、私にそんなことが出来るだろうか?
私はそのことで数日悩み、ようやくその辛い決断が出来た所だった。



「母さん、お茶でも飲む?」

「そうね…」

ちょうど湯気を立て始めたケトルの火を止め、私は安い紅茶に湯を注いだ。
今まで飲んでいたものとは違い、香りも味も良くない安物の紅茶だ。
最初は飲むのも辛かったが、最近ではずいぶん慣れた。
しかも、注ぐのはマグカップ。
以前なら、繊細な柄の描かれたティーカップだったのに… 
 
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