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ぬいぐるみ(牡羊座)
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ソファに腰掛けた僕の視線は、棚の上に飾られたぬいぐるみでいつも停まる。
ブルーのクマの隣にいるピンクのクマのぬいぐるみだ。
いつもいつも、僕はこのぬいぐるみを見て苦笑する。
僕の家の中は、他のどこにも売ってないオリジナルな小物達で溢れている。
それらは良く出来ているばかりではなく、温かで…愛しい。
なぜなら、それらを作ったのは僕の奥さんなのだから。
物には持ち主の気持ちが宿るなんてよく言われるけれど、それが手作りだとなおのこと。
生み出された作品でもあり、子供でもあるそれらの小物には、彼女の愛情や魂の欠片が詰まってる。
だから、そういうものに囲まれたこの部屋はいつもとても温かで居心地が良いんだ。
ただ、そのぬいぐるみだけがこの部屋の中で異彩を放っている。
売り物だといっても誰も疑わないであろう他の小物達とは明らかに違う。
縫い目も雑だし、顔の配置がどうもおかしい。
目の高さは微妙に違うし、鼻の下がやけに長い。
*
「あ…そこはそうじゃなくて…」
手芸店の片隅で毎週ニ回開かれる編み物教室に僕は参加していた。
海外では、男性の編み物がブームだと聞いた僕は、早速、それを試してみたのだ。
柔らかな毛糸を編む事で、癒し効果が得られると言う。
僕は自分のマフラーを編むための毛糸と編み棒を買った。
店員さんが教えてくれる通りに編んだ…つもりだったのだが、元々が酷く不器用な僕はなかなかうまく出来なかった。
頭ではわかってるつもりなのに、手がうまく動かない。
他にも数名のご婦人方が習いに来ていたため、僕だけが店員さんを一人占めするわけにはいかず、教えられた通りに一人で編んでいるといつの間にか目を落したり、編み方を間違えてばかりいた。
やがて、同時期に編み始めたご婦人達のセーターがどんどん出来あがっていく中、僕のセーターだけは一向に進まず、店員さんには「最初はマフラーからにしましょう」と、さじを投げられてしまった。
僕も、最初からセーターは無謀だったと思い、その言葉に従った。
しかし、まっすぐに編めば良いはずのマフラーですらまっすぐに進まない。
僕はいつしか店員さんからも相手にされないようになっていた。
ブルーのクマの隣にいるピンクのクマのぬいぐるみだ。
いつもいつも、僕はこのぬいぐるみを見て苦笑する。
僕の家の中は、他のどこにも売ってないオリジナルな小物達で溢れている。
それらは良く出来ているばかりではなく、温かで…愛しい。
なぜなら、それらを作ったのは僕の奥さんなのだから。
物には持ち主の気持ちが宿るなんてよく言われるけれど、それが手作りだとなおのこと。
生み出された作品でもあり、子供でもあるそれらの小物には、彼女の愛情や魂の欠片が詰まってる。
だから、そういうものに囲まれたこの部屋はいつもとても温かで居心地が良いんだ。
ただ、そのぬいぐるみだけがこの部屋の中で異彩を放っている。
売り物だといっても誰も疑わないであろう他の小物達とは明らかに違う。
縫い目も雑だし、顔の配置がどうもおかしい。
目の高さは微妙に違うし、鼻の下がやけに長い。
*
「あ…そこはそうじゃなくて…」
手芸店の片隅で毎週ニ回開かれる編み物教室に僕は参加していた。
海外では、男性の編み物がブームだと聞いた僕は、早速、それを試してみたのだ。
柔らかな毛糸を編む事で、癒し効果が得られると言う。
僕は自分のマフラーを編むための毛糸と編み棒を買った。
店員さんが教えてくれる通りに編んだ…つもりだったのだが、元々が酷く不器用な僕はなかなかうまく出来なかった。
頭ではわかってるつもりなのに、手がうまく動かない。
他にも数名のご婦人方が習いに来ていたため、僕だけが店員さんを一人占めするわけにはいかず、教えられた通りに一人で編んでいるといつの間にか目を落したり、編み方を間違えてばかりいた。
やがて、同時期に編み始めたご婦人達のセーターがどんどん出来あがっていく中、僕のセーターだけは一向に進まず、店員さんには「最初はマフラーからにしましょう」と、さじを投げられてしまった。
僕も、最初からセーターは無謀だったと思い、その言葉に従った。
しかし、まっすぐに編めば良いはずのマフラーですらまっすぐに進まない。
僕はいつしか店員さんからも相手にされないようになっていた。
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