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カーディガン(いて座)

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「なぁ、マルタン…
最近、クロワさんの様子が、なぁ~んかおかしいと思わないか?」

「クロワさんの…?」

リュックに言われるまで、特にそんなことを感じた事はなかったが、言われてみれば、確かに最近のクロワは夕食後も私達と話す時間さえ惜しむように一番に部屋へ戻る。
体調が悪い様子はなく、元々けっこう夜更かしな彼女ではあったが、疲れることも眠い事もあるだろうと軽く考えていた。



「そういえば、そうだな。
一人になりたがるというのか…」

「だろ?
最近は、薬草も採ってないから薬を作ってるわけじゃないと思うんだ。」

「……そうだな。
じゃあ、本でも読んでるんじゃないか?
本を読みたい時は一人になりたいもんだろ?」

「それはそうだけど…
クロワさん、なにか、隠してるような気がするんだよなぁ…」

「君の考えすぎじゃないか?」

私がそう言っても、リュックの疑念は消え去らない様子で、彼は腕を組み何度も首を捻っていた。







「マルタン、ちょっとクロワさんの所に行ってみないか?」

夕食後、男達三人で軽く飲んでクロードと別れた後、リュックがクロワの部屋に行こうと言い出した。



「だけど…もうこんな時間だぞ…何か用事でもあるのか?」

「用はないけど、やっぱりクロワさんの様子が気になってさ。
ちょっと胃が痛いから胃薬をくれとかなんとか言ってみるよ。」

リュックは、どうやらクロワの様子をまだ気にしていたようだ。



「……ノックしてすぐに出てこなかったら、戻るんだぞ。
寝てたら悪いからな。」

「わかってるさ。
でも、きっと、クロワさんはまだ起きてると思うんだ。」



私はあまり気は進まなかったが、リュックはきっと納得するまで諦めないだろう。
そう思い、渋々着いて行くことにした。



「いいか、マルタン。
ドアが開いたらとりあえず中に入るから、あんたもすぐに入って来てくれよ。」

「あぁ…わかってる。」

本当はこんなことに加担したくはないのだが…
リュックの好奇心にも困ったものだと思いながら、私は小さく頷いた。



「じゃ…行くぜ!
……クロワさん、俺だ。
ちょっと良いかな?」

リュックがクロワの部屋の扉をノックをすると、すぐにクロワの返事が聞こえ、小さく扉が開かれた。



「ちょっと胃が痛くて、薬をもらいにきたんだ。
邪魔するぜ。」

「あ、リュック!!」

クロワが止める間もなく、胃を押さえるように身をかがめたリュックは部屋の中に押し入った。 
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