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ポイントカード(おうし座)

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「父さんは、病気がわかってからも、あんたには絶対に知らせるなって言ってね…
手術の時もだよ…
その上、葬式にも呼ぶなって言ってたんだよ。
言うのは骨になってからで良いって…
きっと、衰えた自分の姿を見たらあんたが心配すると思ったんだと思う。
でも、さすがにそんなことは出来ないから知らせたんだけど、あんたは取引先とのゴルフがあるから来れないって言った…
あの時、私はどれだけ本当のことを言いたかったか…」

「私…そのことを心の底では良い気味だって思ってた。
あんたのことばかりを考える父さんを恨んでたんだ。
でも、先生に覚悟して下さいって言われて…本当に父さんがこのまま死ぬんだって思ったら、そんな気持ちも吹き飛んで…
あんたが来てくれて本当によかったって思ったんだよ…
来てくれなかったら、私も一生悔いが残ったと思う…
本当にありがとう…達也…」

「姉さん……」

僕の知らない所で、皆、それぞれに辛い想いをしていたことにやっと僕は気付いた。
父に嫌われ、家族とも疎遠になって、一人ぼっちの寂しさを仕事だけに打ち込んで…
それでもどうにも満たされないまま、僕は人生を投げやりに生きていた。
だけど、本当は僕は嫌われていたわけでもなんでもなく…
誰よりも深く父に愛されていた。
苦しんでいたのは僕だけじゃなかった。

それがわかっただけで、冷えきった僕の心に温かな血が流れ出す想いだった。







「じゃあ、達也…
気をつけてね。」

「母さんのことは心配しなくて大丈夫だから。」

僕は小さく頷くと、二人に背を向け玄関の扉を開けた。




(……こ…ここは……!)



僕がいたのは、通い慣れた職場だった。
僕の実家の家の前にいるはずなのに、なぜ僕はこんな所に…
ふと、目をやった時計の時刻に僕は見覚えがあった。



(まさか…これはあの日…?
ポイントカードにあったあの店を探しに行ったあの日…?)



隣の部屋に向かい、そこにいた社員に日にちを尋ねると、やはりあの日のあの時間…
そう、僕がキリーの店に向かう前のあの日のあの時間だ。



(じゃあ、あれはなんだったんだ?
あの体験が全部夢だったとでも言うのか?
いや、そんなことはありえない。
僕は眠ってなんかいないんだから…でも、だったら、あれは……)

僕は、部屋を飛び出した。
もちろん行き先はキリーの店だ。
あの店で、おかしな旅行券を押し付けられてからこんなことになったのだから、あそこへ行けばきっとなにかがわかる。 
 
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