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わかってしまえば、車窓から見える景色も少しも怖くはなくなった。
ただ呆然と、その幻想的な景色を眺めるうち、僕は硝子窓に映った自分の顔に気が付いた。
僕は自分でも気付かないまま、涙を流していたのだ。
(なぜだ?なぜ、泣く必要がある?
そりゃあ、まだこんな年で死んでしまうことに未練がないといえば嘘になる。
だが、独り身で良かったと思う気持ちは本当だ。
妻や子がいたら気がかりで、きっともっとこの世に未練があったはずだから。
短い人生だったが、僕は同じ頃に入社した他の誰よりも出世をした。
仕事だけは懸命にやってきた…
……仕事だけだけど…それだって立派な生き方だ。)
僕は、頬の涙をそっと拭い、スクリーンを降ろした。
行き先は地獄なのか天国なのかはわからないが、そこへ着くまでずっとあの景色をみていると、気持ちが滅入りそうだったから。
さっき車掌が言っていた通り、列車はもう走り出している。
目的地に着くまで、止めることも降りることもきっと出来ないのだ。
それ以前に、僕自身、降りたいという気もなかった。
僕は、目的地に着くまでしばらく眠ろうと目を閉じた。
*
「お客さん、着きましたよ。」
うとうとしかかった時に、先ほどの車掌に肩を叩かれた。
列車の走行音はやみ、ほとんど動きもない。
「そう…世話になったね…」
「どうぞ良いご旅行を…」
車掌は乗降口を手で示し、にこやかに微笑んで会釈をした。
この先に待つのがどんな所なのかはわからないが、自分でも意外な程、僕には恐怖心はなかった。
(地獄でも別に構わない…
いや、むしろ、その方が……)
僕は、目の前の古めかしい木の扉を開けた。
ただ呆然と、その幻想的な景色を眺めるうち、僕は硝子窓に映った自分の顔に気が付いた。
僕は自分でも気付かないまま、涙を流していたのだ。
(なぜだ?なぜ、泣く必要がある?
そりゃあ、まだこんな年で死んでしまうことに未練がないといえば嘘になる。
だが、独り身で良かったと思う気持ちは本当だ。
妻や子がいたら気がかりで、きっともっとこの世に未練があったはずだから。
短い人生だったが、僕は同じ頃に入社した他の誰よりも出世をした。
仕事だけは懸命にやってきた…
……仕事だけだけど…それだって立派な生き方だ。)
僕は、頬の涙をそっと拭い、スクリーンを降ろした。
行き先は地獄なのか天国なのかはわからないが、そこへ着くまでずっとあの景色をみていると、気持ちが滅入りそうだったから。
さっき車掌が言っていた通り、列車はもう走り出している。
目的地に着くまで、止めることも降りることもきっと出来ないのだ。
それ以前に、僕自身、降りたいという気もなかった。
僕は、目的地に着くまでしばらく眠ろうと目を閉じた。
*
「お客さん、着きましたよ。」
うとうとしかかった時に、先ほどの車掌に肩を叩かれた。
列車の走行音はやみ、ほとんど動きもない。
「そう…世話になったね…」
「どうぞ良いご旅行を…」
車掌は乗降口を手で示し、にこやかに微笑んで会釈をした。
この先に待つのがどんな所なのかはわからないが、自分でも意外な程、僕には恐怖心はなかった。
(地獄でも別に構わない…
いや、むしろ、その方が……)
僕は、目の前の古めかしい木の扉を開けた。
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