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ポイントカード(おうし座)

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「こ、ここは…!」

僕は、ぐらりと傾いた床に、思わず目の前の座席をつかんだ。
そこは、列車の車両の中…それも、やけに古めかしい車体だ。



(そんな筈がない!
僕は、今の今まで、あのおかしな店にいたのだから…)

振り返るとその扉は、いつの間にか車両の扉になっていた。
僕が、その扉を開けようとした時、ちょうど向こう側からやって来た車掌と出くわした。



「旅行券を拝見します。」

「ちょっと待って下さい。
僕は、こんな列車に乗った記憶はない!」

車掌は僕の顔を見ながら、笑いを押し殺したおかしな表情を浮かべた。



「そうおっしゃられても、あなたは現にここにいてもう列車は走り出しています。
それに、ほら…あなたはそこに旅行券をお持ちだ。」

車掌は僕が持っていた旅行券を視線で示し、そしてそれに手を伸ばした。



「はい、間違いありません。
ありがとうございました。」

「待ってくれ!
僕はさっき、おかしな店にいて…
い…いや、そんなことより、この列車はどこに向かってるんだ!」

「この列車は、そこにある通り、あなたが一番行きたい場所行きとなっております。」

そう言って、軽い会釈をすると、車掌は車両を後にした。



まただ…
車掌はあのおかしな男と同じことを言った。
こんな奴と話しても、まともな返事など返って来る筈がない。

僕は、車掌が入って来た扉を開けた。
そこには、また同じ車両があるだけで、あの店には戻らなかった。
一体、なにがどうなっているのか…
混乱した頭を抱え、僕は近くの座席に腰を降ろした。
そういえば、僕の他に乗客は誰もいないのか?
列車の走行音以外には、ほとんどなにも聞こえず、人の気配がしない。
すべての窓には、おかしなことにスクリーンが降ろされていた。
それを引き上げると、外に見えたのは光のプリズム。
鮮やかな色がうねうねと絡みあうその風景は、美しいがなにかうすら寒いものを感じさせる。



(まさか……!)

その時、僕は、あることを思い出していた。

死者を迎えに来る列車…なにかそんな話を映画かアニメで見た記憶がよみがえったのだ。



(そうだ…もしかしたら、僕はなんらかの突発的な病で急死してしまったんじゃ…
だとしたら、このおかしな状況も理解出来る。
いや、そうでないと、こんなおかしな状況は説明が付かない!
……そうか…僕は……そうだったのか……)

ようやく僕は今の状況が理解出来たような気がした。
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