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 「お父様…ちょっとお話したいことがあるの…」

ミシェルの様子を見に来たシュミットさんに、彼女は真剣な視線を向けた。
まさか、ミシェルはあのことを…?
 俺は俄かに緊張した。



 「なんだい、ミシェル?」

 「私が…私がもしも、元気になったら…
ジョッシュと結婚させてくれる!?」

やはり、思った通りだ。
 彼女は、昼間、俺と話したことを早速、シュミットさんに訊ねたんだ。
シュミットさんは目を丸くして、ミシェルと俺の顔を交互にみつめた。
 俺の緊張はさらに極まる。



 「……あぁ、もちろん構わない。
おまえたちには酷いことをしてしまったと思っている。
だが、今度はもう反対はしないよ。
いつだって良い。
 好きな時に結婚しなさい。」

 「ほ、本当?お父様…」

 「あぁ、本当だ。
そうだ、明日、早速、仕立て屋を呼んで、ドレスを作ってもらおう。」

シュミットさんは、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 俺はまだどこか信じられず…でも、張り詰めていた緊張の糸がぷつんと途切れたような感覚も感じた。



 「お父様…気が早過ぎるわ。
 今、採寸て仕立てたら、結婚式の時にはきっと入らないわ。
 私、たくさん食べて元通りになるんですから。」

 「それなら、最初から大きめに作ってもらえば良いじゃないか。
お前が一番太ってた頃のドレスと同じくらい…いや、ジェシカと同じくらいのものを作ってもらおうか。」

 「いやだわ、お父様ったら。」

ジェシカというのは、このお屋敷の使用人の名前で、とてもふくよかな女性だ。
シュミットさんがそんな冗談を言ったのを、俺は初めて聞いて…
三人の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。

 
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