1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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会えない日には…

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「織姫様……残念ですが、今日のご面会は難しいようです。
 地上に大量の雨が降り、天の川の水かさが増しております。」

 「な、なんと……」

 織姫は、侍女の言葉にそっと涙を流しました。



 (う……)

 織姫は、拳を握り締め、肩を揺らします。
その様子を見た侍女は、辛そうな顔をして部屋を出て行きました。



 (や、や、やったーーー!)



 織姫の涙は悲しいものではなく、嬉し涙でした。



 (あぁ、良かった!これで今年は牽牛と会わずに済むわ!)



 織姫は、部屋の中で喜びの舞を踊りました。



 (どうか、来年も雨が降りますように…!)



 舞い続け、疲れた織姫は縁側に腰掛け、遠い過去に想いを馳せました。



 (最初はうまくいってたんだけどな。
でも、あんなの所詮幻想だったのよね…
私はあの頃、機織りにハマってて、恋愛にも全く興味がなかった。
そんな私を心配して、父上が牽牛を私に紹介した。
 今までお付き合いもしたことなかったのに、いきなりの結婚だったし、思わず、牽牛に夢中になってしまったけど、夢中になったらなったで、私達が働かなくなったって、父上は激怒して…
引き離されてしまった時は、どれほど悲しかったことか…)



 引き離されてしまった二人は、働く意欲もすっかりなくし、まるで抜け殻のようでした。
それを見かねた織姫の父親が、年に一度だけ二人を会わせてくれることになりました。
ふたりは、会えるその日を楽しみにまた真面目に働くようになりました。



 (あの時は本当に嬉しかったなぁ…
七夕の日に会えるってことを心の支えにして、また機織りにも精を出して…
 ……でも、時の流れと共に私はどんどん変わっていった。
 会えない人よりも会える人に情が移るのは当然のことじゃない…?)



 織姫は、たいそう美しい女でしたから、モテるのは当たり前。
 言いよって来る男の中には、牽牛よりも男前な者も、牽牛よりも話のうまい者もたくさんいました。
そういう者たちと会ううちに、織姫の心は牽牛から離れて行きました。



 (そもそも、なんで父上は私に牛飼いなどをすすめたのかしら?
 私は、天帝の娘…もっと良い縁談はいくらでもあったはずなのに…)



とはいえ、天帝に逆らうようなことは出来ません。
 織姫は、天帝の怒りを買わないように、牽牛の貞節な妻を装い、機織りも真面目に続けました。
 七夕が近付くと、密かに雨乞いの祈祷をしていることももちろん内緒です。


 
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