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俺のアイスコーヒー

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「東京ドームを満杯にしてやるぜ!」

 「世界に名を轟かせようぜ!」



 俺の狭いアパートは熱気で溢れていた。
 今日が初対面だというのに、えらく盛り上がっていた。
いや、盛り上がり過ぎだ。
あまり騒ぐと、隣から文句を言われそうで気が気じゃない。
 酒だって、まだ舐める程度にしか飲んでないのに…



俺がロックに目覚めたのは、中学の時だった。
きっかけはなんだか覚えていないけど、ロックが好きになってからは他の音楽には興味が持てなくなった。
 高校になって、どうしてもギターが欲しくなり、バイトしてギターを買った。
ディーンの黒いMLだ。
 単に格好良さで選んだ。
それから、俺は暇さえあればギターの練習をした。
 独学だが、高3の頃には、速弾きも出来るようになっていた。



 進学する気はさらさらなかった。
 俺は、ロックスターになる!
その意志は、親の反対に遭っても少しも揺らぐことはなかった。
 高校を卒業したら上京し、小さなアパートを借りた。
SNSを通して、バンドメンバーを募り、ようやく今日、初顔合わせとなったのだ。
 最初は皆おとなしかったのに、酒が少し入ると急に饒舌になった。



 「太田、顔が真っ赤だぜ、大丈夫か?」

 「おいおい…そういうのやめようぜ。」

 「そういうのっ…て?」

 「俺達は、世界を目指すバンドなんだ。
 『太田』なんて本名で呼ぶのはダサい。
なんか、ニックネーム的なのを付けようぜ。
 俺は……そうだな、アーサーにする!」

そう言ったのは、ヴォーカル担当の浅田だ。
 浅田だからアーサーって、それこそダサいんじゃないのか!?



 「えー…じゃあ、俺はミッキーにするよ。」

そう言ったのは、ベーシストの三木だ。
みんな、ネーミングが安直だ。



 「じゃあ、俺はトミーだな。」

ドラムスの富田がそう言う。



 「あんたはどうする?ハッカーなんてどうだ?」

それは俺の苗字が袴田だからだろう。



 「やだよ。もっとカッコいい…」

 「そうだ!チェリーが良い!」

 「チェリー?なんでだよ。」

 「だって、山形出身だろ?山形って言えば、さくらんぼが名産だし。」

 「おっ!そりゃあ良い!」

 「うん、決まりだ!」



そんな名前嫌だというのに、皆は勝手に俺を『チェリー』と命名した。
 俺達は、とにかく酒が弱くて、ビールやチューハイの1本でへべれけだ。



 「チェリー、コーヒーはないか?
 眠くてたまらん。」

 「あぁ、あるぞ。」

 俺は、皆に良く冷えたコーヒーを出してやった。



 「……なんか、このコーヒーおかしいぞ。」

 「コーヒーじゃなくて麦茶じゃないか。」

 「俺は、これを毎日コーヒーだと思って飲んでる。
おまえらもそう思って飲んでみろよ。
コーヒーの味がするから。」

 皆は、不満そうな顔をしながらも飲んでいた。

 
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