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花束

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(なかなか難しいもんだな…)



ここのところ僕は浮かれている。
それは、山本さんが、現在独身だと知ったからだ。
 既婚者だとばかり思っていたから、そうじゃないとわかった時は、本当に嬉しかった。



 子供がいることも、全然気にならないと言ったら嘘になるけれど、そんなことよりも何よりも、彼女が独身だということが勝っていた。
それはつまり、僕にもチャンスはあるということだから。



 浮かれた僕は、今日は花を買って来た。
 通りがかった花屋で見たピンクの薔薇を見た時、この花を山本さんにあげたいと思った。
だけど、突然そんなことをしたら、山本さんも驚くだろう。
だから、店に飾ることにした。
そもそも、この僕が花を買うなんて、絶対にどうかしている。
 山本さんのことで、浮かれまくっている証拠だな。



 花屋の店員さんに見繕ってもらって、色鮮やかな花束を作ってもらい、それをそのまま花瓶にぶちこんだんだけど、やっぱりどうもバランスが悪いような気がする。



 (ま、いっか。)



 考えたところで、センスのない僕にはうまくは活けられないだろう。
 僕は、店を開ける準備に取り掛かった。



 *



 「まぁ、綺麗なお花ですね!」

 山本さんは、今日もランチを食べに来てくれて…
そして、一番に花のことに気付いてくれた。



 「あなたにぴったりのお花だと思って…」



そんなことが、僕に言えるはずがない。



 「花屋さんを通りがかったら、目につきまして。
お店に飾ったら、綺麗かな?と思って買って来たんですが、なんせ活けるのがへたくそで…」

 「そんなことはないと思いますよ。
でも、少しだけ直しても良いですか?」

 「はい、ぜひお願いします。」

 「はさみはありますか?」

 「はい、ちょっと待って下さいね。」

 僕がキッチンばさみを手渡すと、山本さんはくすりと笑い…
あ、そうか、彼女が言ったのは花ばさみのことだと気が付いた。
でも、僕は花ばさみなんて持ってないから、曖昧に笑って誤魔化した。



 *



 「あぁ、素敵です!どうもありがとうございます!」

 「いえ…お粗末様です。」

 彼女がちょっと手を加えただけで、花瓶の花は見違えるようになった。
 山本さんはセンスが良い。



 花を活けてもらったお礼に…と、今日はランチ代を受け取らなかった。
だけど、それは余計なことだったと後で思った。
そんなことよりも、何かプレゼントでもすれば良かったのに…
いや、今からでも遅くはないはずだ。
 花を活けてもらったことを口実に、何か、彼女にプレゼントしよう!
そう思うと、僕の胸は高鳴った。

 
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