上 下
356 / 401
最低のゴールデンウィーク

しおりを挟む
「えっ!ハ、ハワイですか!」

 「そうなんだ。もちろん金はいらない。
 行くか?それともGWは予定が詰まってるのか?」



 時は、4月26日の夕方。
 俺は、安田課長にハワイに行かないかと訊ねられた。
しかも、飛行機代もホテル代もいらない、と。
どうしてもはずせない会合が出来てしまい、行けなくなったかららしい。
 俺には、夢みたいな話だった。
ゴールデンウィークの予定なんて何もなかったし、そもそもハワイなんていまだ行ったこともない。



 「行きたいです!」



そう言いたかったが、無理だと諦めた。
なぜなら俺はパスポートを持ってない。
 申請したところで、出発は明日なのだから間に合うはずもない。



 「予定は何もないんですが、俺、パスポートを持ってないんで…」

 「そうか、それは残念だ…」



 安田課長が去ると同時に、俺は肩を叩かれた。
 振り返ると、そこには森下部長がいた。



 「早見、今、GW中は予定がないと言ってたな。」

 「え?は、はい、まぁ…」

 「実は、今週末に息子が引っ越しをするんだが、良かったら手伝いに来てくれないか?」

 「え?は、はぁ…わかりました。」



ドケチで有名な森下部長のことだ。
ただでこき使われることはわかっている。
しかし、部長の頼みを断ることも出来ない。



 近くだからということで、なんと台車で荷物を運ばせられて、俺の貴重な休みは肉体労働で幕を開けてしまった。
 引っ越しには三日かかった。
そんな重労働の末、森下課長が俺にくれたのは、ペットボトルのお茶一本だけだった。



 5月に入り、久しぶりの友人から電話があった。
 田舎の実家まで車で旅行に行こうと誘われて、ほいほいと着いて行ったら、ゴミ屋敷と化した実家の片付けを手伝わされた。
なんでも、一人暮らしをしていたお母さんが二年前に亡くなったとのことだったが、いつの間にかゴミ屋敷になっていたのだという。
 騙された!そう思ったが、今更ひとりで帰るわけにも行かず、片づけなければ寝るところもなかったので、仕方なく働いた。
 5日間、俺達はゴミを片付け続け、ようやくそれなりに綺麗になった。



 「ありがとう、助かったよ!」

 帰りの道の駅で、友人はかつ丼をおごってくれた。
あれだけ働いて、かつ丼だけ??
でも、何もないよりはましか…そう思うしか自分を慰める術がない。
 気が付けば、GWもあと1日となっていた。



 (あぁ、腹減った…)



 家に戻って最初に思ったのは、そんなことだった。
しかし、しばらく留守をしていたから、家にはろくな食べ物がない。



 「あ、弁当……」

 台所のテーブルの上に弁当を発見した。
そうだ…あの時、弁当を買って来て食べようとしてた時に電話がかかってきて…



(5日か~…)



 大好物のとんかつ弁当を目の前にして俺は悩んだ。
においを嗅いでみたところ、特におかしな様子はない。



 (ま、5日くらい大丈夫だよな。)



その後、俺は猛烈な腹痛に襲われ…GW最終日は、一日中、腹を抱えてうなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

今世では溺れるほど愛されたい

キぼうのキ
ファンタジー
幼い頃両親を亡くし、親戚の家を転々としてきた青木ヨイは居場所がなかった。 親戚の家では煙たがられ、学校では親がいないという理由でいじめに合っていた。 何とか高校を卒業して、親戚の家を出て新しい生活を始められる。そう思っていたのに、人違いで殺されるなんて。 だが神様はヨイを見捨てていなかった。 もう一度、別の世界でチャンスを与えられた。 そこでのヨイは、大国のお姫様。 愛想、愛嬌、媚び。暗かった前世の自分に反省して、好かれるために頑張る。 そして、デロデロに愛されて甘やかされて、幸せになる!

未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)

京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。 だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。 と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。 しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。 地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。     筆者より。 なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。 なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

絶滅危惧種のパパになりました………~保護して繁殖しようと思います~

ブラックベリィ
ファンタジー
ここでは無いどこかの世界の夢を見る。起きているのか?眠っているのか?………気が付いたら、見知らぬ森の中。何かに導かれた先には、大きな卵が………。そこから孵化した子供と、異世界を旅します。卵から孵った子は絶滅危惧種のようです。 タイトルを変更したモノです。加筆修正してサクサクと、公開していたところまで行きたいと思います。

型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚
ファンタジー
旧題:型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ 第15回ファンタジー小説大賞【ユニーク異世界ライフ賞】受賞作です。 8月下旬に第一巻が発売されます。 300年前に世界を救った勇者達がいた。 その勇者達の血筋は、三百年経った今も受け継がれている。 勇者の血筋の一つ『アーレスト侯爵家』に生まれたクリスティン・アーレストは、ある日突然、家を追い出されてしまう。 「はぁ……あの継母の差し金ですよね……どうしましょうか」 侯爵家を放逐された時に、父から譲り受けた一つの指輪。 それは、クリスティンの中に眠っていた力を目覚めさせた。 「これは……型録通販? 勇者の力?」 クリスティンは、異世界からさまざまなアイテムをお取り寄せできる『型録通販』スキルを駆使して、大商人への道を歩み始める。 一方同じ頃、新たに召喚された勇者は、窮地に陥っていた。 「米が食いたい」 「チョコレート食べたい」 「スマホのバッテリーが切れそう」 「銃(チャカ)の弾が足りない」 果たして勇者達は、クリスティンと出会うことができるのか? ・毎週水曜日と土曜日の更新ですが、それ以外にも不定期に更新しますのでご了承ください。  

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...