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最良の日

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「あと少し!あと少しなんだから、頑張れ!
なんとか我慢するんだ!」



 全くなんて奴だ。
 私は、この時、夫に殺意を感じた。
だって、陣痛が始まって痛くてたまらないっていうのに、まだそんなこと言う!?
こいつ…信じられない!



私達はお互い結婚も遅くて、数年経っても子宝には恵まれなかったから、子供のことは半ば諦めていた。
ところが、昨年、まさかの妊娠!
彼も私ももう舞い上がってしまって……



「予定日が5月1日ってことは、令和生まれだよだな。
 年号が変わった日に生まれるなんて、ある意味、運命だぞ。
これは、名前も考え直さなきゃ!」



 彼がそんなことを言い出したのは、新元号が発表された4月1日。
それまでにいくつか候補の名前を考えてたっていうのに、彼は、それらを覆し…



「決まった!」



 彼がへたくそな字で、半紙に書いたのは『令和』の文字だった。



 「は?どういうこと?」

 「だ~か~ら~…元号と同じ漢字の名前にするんだ。
でも、読み方は『れいわ』じゃないぞ。
 『れお』だ。
 男らしくて良い名前だろ?」

 「って…どっちが生まれるか、まだわからないじゃない。
あえて訊かなかったんだから。」

 「俺、絶対、男だと思うんだ。
 直感っていうか、なんていうか、なんかものすごくそんな気がして来た。
この感覚は、きっとお告げみたいなもんだ。
 俺、ちょっと霊感みたいのあるしさ。」

そうか~?
それって、お化け屋敷に入りたくないから言ってる言い訳じゃなかったっけ?
霊感があるとか思ったこと、一回もないんですけど!?



でも、彼は一度言い出したら聞かない。
それに、元号と同じ名前っていうのが良いのかどうかはわからないけど、『令和れお』っていう名前自体は悪くない。



そんなことを思ってたのだけど、陣痛が4月30日に始まってしまって…



「おめでとうございます!とっても可愛らしい女の子ですよ。」

 「え、えーーーっ!!」



 生まれたのは、4月30日の午後11:58
 2845グラムの女の子だった。



彼は、頭を抱えて項垂れる…
彼の期待を裏切り、赤ちゃんは平成最後の日に生まれてしまったんだから。
しかも、女の子…
年齢的なことを考えると、この子が私たちの最初で最後の子供になる可能性は強い。
それなのに、期待を裏切ったからって、彼がこの子を可愛がってくれなかったらとても悲しい…







 「成美なるみちゃん、パパでちゅよ~!」

 私の予想は杞憂に終わった。
 彼は、赤ちゃんを目の中に入れても痛くないみたいに猫かわいがりしている。



 「女の子で良かった~
やっぱり、女の子の方が可愛いよな。
 俺、女の子が生まれるような予感がしてたんだ。」

令和に生まれた男の子に『れお』って名付けるんじゃなかったんかい!
でも、鼻の下を伸ばして赤ちゃんを抱っこする彼の顔を見ていたら、そんなことはもうどうでも良いと思える。
平成最後の日は、私達にとって最良の日となった。
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