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二度目の偶然

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「じゃあ、行って来るからね。」

 「うん、気を付けてね。」

 茉奈は手を振り、タクシーに乗り込んだ。
 私は、ちょっとうるっと来てるっていうのに、茉奈は少しも動揺した様子はない。



このGW、お父さんが10連休だから、旅行に行こうと言い出して…
でも、私は30日と2日が出勤だから、どうしようかと悩んだんだけど、入社早々休むのもどうかと思い、結局、行かないことにした。
 旅行の費用で親に負担をかけるのも気が引けたから。



 茉奈だけ行くことになったのだけど、今まで茉奈と離れたことなんてなかったから、私はかなり寂しいっていうのに、茉奈は意外な程クールだ。



 「ママ、ポコたんを貸してあげる。
 寂しい時は、ポコたんとお話すると良いよ。」

そう言って、茉奈はお気に入りのうさぎのぬいぐるみを置いて行ってくれた。



 「ポコたん、ママはもう寂しいよ…」

 旅行の初日から寂しくて仕方なかった。
 特になにもすることがなくて、家でぼーっとしていると、自然とマスターのことが頭に浮かんだ。



 夜桜を見に行ってから、なんだかマスターが冷たくなったような気がする。
あの時は、いろいろお話をしてとても楽しかったのに…
マスターには憧れに似た気持ちを抱いていたから、夜桜見物に誘われた時もすごく嬉しくて、もしかしたら…なんて、勝手な想像までして喜んでたら、次の日から何か態度がよそよそしくなって…



最近は、ランチに新メニューも出ないから、もしかしたら体調が悪いとか、何かトラブルでもあったんだろうかと思うと心配だし…
でも、そんなことを訊ける程、まだ親しくもないし…







 茉奈たちが旅行に出発してもう5日目だ。
 毎日、電話は来るけれど、寂しさは募るばかり…
やっぱり、仕事を休んで私も一緒に行けば良かった…そんな後悔ばかりが胸に浮かんで来る。



 茉奈は少しも寂しがっていない様子だ。
 毎日、旅行先での出来事を楽しそうに話してくれる。



 「私も元気出さなきゃね…」

ポコたんをバッグに入れ、私はあてもないまま家を後にした。
バスに乗って、近くのショッピングセンターに行き、ウィンドウショッピングをして、一人でお茶を飲んで…



「あ、そうだ。図書館に行こう!」

 茉奈が読みたいって言ってた本が、本屋さんにはなかったから、探してみようと思ったのだ。
 何年か前に行ったことがあるから迷いはしなかった。



 「あ!」

 「あっ!」

 図書館に入った途端、私は思いがけない人と出会った。
マスターだ。



 「こ、こんにちは。」

 「あ、ど、どうも。」

 寂しかったせいか、マスターに偶然会ったことが嬉しくてたまらなかった。
さながら、私は、ちぎれる程尻尾を振る小犬みたいだ。



 「あの……良かったら、お茶でも飲みませんか?」

 言ってしまった後で、私は急に恥ずかしくなった。
 会って早々、何を言ってるんだろう。
マスターも戸惑ってるのか、すぐには返事をくれなかった。



 「……そうですね。
でも、本は良いんですか?」

 「は、はい。良いんです。」

 「じゃあ、行きましょうか。」

 私達は、図書館に隣接する喫茶店に向かった。

 
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