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「茉奈…撮るわよ。
はい、チーズ!」

 校門の前でにっこり微笑む茉奈…
相変わらず、多少、体は弱いけど…
ここまで育ってくれたことが、とても嬉しい。



 「ママも撮ったら?」

 「ママは良いよ。
それより、茉奈…こっちでも撮ろうよ。」



 茉奈には父親がいない。
 茉奈が二歳の時に、彼は突然旅立った。
 悪い病気がみつかって、それからわずか三か月後のことだった。



 大学を卒業してからは、家事手伝いという名目で家でぶらぶらしていた。
それから、親の勧める見合いで彼と知り合い、意気投合してすぐに結婚。
 私は専業主婦として、毎日彼を待ち…
翌年には、茉奈を授かった。



 私は、自分のことを幸せな人間だと思ってた。
なのに、そうではなかった。
 結婚してたったの三年で、私は未亡人となってしまったのだから。



 彼の死後、茉奈を連れ、実家に戻った。
 両親は、茉奈が来たことで喜んでくれたし、私のことも気遣ってくれた。
ずっと、ここにいれば良いと言ってくれた。
やっぱり、私は幸せな人間なんだとは思ったけれど、しばらくするうちに私の心に変化が起きた。



 茉奈が小学生になるのと同時に、私は家を出て、ふたりで暮らすことを決めた。
 家は実家の近くだし、家を借りる時の権利金等も親に借りたのだから、自立とはとても呼べないのかもしれないけれど…
それでも、私は茉奈と一緒に新たなスタートを切ることを決めたのだ。
 私は、茉奈より一足早く、昨日、入社式を済ませたばかりだ。



 「ママ、撮らないの?」

 「え?あ、ごめん、ごめん。
じゃあ、撮るよ!はい、チーズ!」

 写真を撮り終え、私達は家路に着いた。



 「わかってる?
 明日からママはお仕事だから、学校が終わったらまっすぐばぁばの家に行くのよ。
 絶対に、知らない人に着いて行ったりしちゃだめよ。」

 「ママ……何度同じこと言うの?
 私、もう小学生だし、大丈夫だってば。」

 「でも、この間、知らない人にお花もらったり、ケーキもらったりしたじゃない。」

 「あのおじさんは悪い人じゃなかったから。」

 「悪い人程、優しいふりをするものなのよ。」

 「そうじゃないってば。本当に良い人だったんだってば。」



 茉奈は意外と強情だ。
 素直に言うことを聞いてはくれない。
 一体、誰に似たんだか。
 誕生日に、茉奈がラナンキュラスとケーキを持って帰って来た時は本当に身が縮まる想いだったっていうのに。



 「茉奈…着替えたら、スーパーに行こうね。」

 「うん、あ、お花にお水もあげなきゃね。」



 茉奈は、ラナンキュラスを大切に育ててるけど、私としてはとても複雑な想いだ。
そんな私の気持ちも知らず、茉奈はそのおじさんのことを良く話す。



 (まだまだ親としても新米の私だけど、子育ても仕事も頑張らなきゃ!)



 雨上がりの四月の空は、どこまでも青く澄み切っていた。
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