1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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雛人形

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「あーーーっ!」

バイトから帰って来た涼香が、大きな声を上げた。
 彼女の視線の先には、さっき出したばかりのお雛様。



 「もうっ!こんなの出したら、狭くなるじゃない。
しかも、すぐに仕舞わなきゃいけないのに…」

 「何言ってんの。あんた、出すのも仕舞うのも最近は全然手伝わないじゃない。
 文句言う資格なし!」

 涼香は言い返す言葉がなかったのか、小さなため息を吐いて、ソファに座った。
 確かに、この狭いリビングに七段飾りのお雛様はかなり邪魔だ。
だけど、数日のことじゃない。



 (私にとって、雛祭りは特別の行事なんだもの…)



 中三の時、私には初めての彼氏が出来た。
 同じクラスの赤坂君だ。
 彼の誕生日は三月の三日。
 男なのに雛祭りに生まれるなんて…彼は自分の誕生日が嫌いだって言ってた。
だから、雛祭りに彼を家に招いた。
うちの親は共働きだったから、夜にならないと帰って来ない。
お小遣いでケーキとちらし寿司と甘酒を買って、彼をもてなした。
 彼は、お雛さまって綺麗なもんなんだねって、うちのお雛様にいたく感動していた。
お雛様達の見つめる前で、私達は、彼の誕生日と桃の節句を祝った。
アルコールは入ってないっていうのに、彼は甘酒に酔ったって言って、私に口づけした。
お互い、それがファーストキスだった。
お雛様が見てるのに…そう思うと恥ずかしかったけど、でも、やっぱり嬉しかった。



 彼との交際は順調で…高校を卒業したら結婚しよう…そんなことを二人で誓い合っていた。
だけど、その少し前…私の体に異変が起きた。



 私は妊娠していた。



だけど、そのことをなかなか彼に言い出せなかった。
もちろん、親にも言えない。
どうしたら良いのか、一人で悩む間にもどんどんお腹は大きくなっていった。



 母に妊娠がバレたのはもう7か月になろうかとしている頃だった。



 私は、高校をやめ、田舎の祖母の家に連れて行かれた。
 相手のことは最後まで口を閉ざした。
 赤坂君に迷惑をかけたくなかったからだ。



やがて、涼香が生まれた。
 涼香が5歳の時に祖母の家を離れ、それからはひとりで涼香を育てた。



この選択が正しかったのかどうかは、今でもわからない。
でも、涼香が生まれて来てくれたこと、私はとても幸せだと思ってる。



 涼香を父親に会わせてやれることは、きっと一生無理だろうけど…
そのことは涼香に悪いと思うけど…



「お母さん、お腹減った!」

 「はいはい、ちょっと待ってね。」

もうじき高校生になるっていうのに、涼香はまだまだ私に甘えている。
 私もまだ子離れは出来ない。



 赤坂君、今どこでどうしているのかわからないけど…
今年もお雛様と一緒にあなたの誕生日を祝うよ。
あなたが幸せでいられるようにと願いを込めて…


 
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