1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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記憶の人

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(大丈夫だ。そんなに緊張することはない!)



 扉の前で、自分自身に言い聞かせる。
なのに、僕の心臓は今にも胸を突き破って出て来そうなくらいに高鳴っている。



 (深呼吸だ!)



 大きく息を吸い込んで、それを一気に吐き出す。
 今年、初めて、僕は担任を受け持つことになった。
 一年三組…このクラスが僕の初めての担任だ。
この女子高に来て三年目…
嬉しいような心配なような…



そんなことで今更悩んでいられない。
さぁ、入るぞ!
 僕は、勢い良く扉を開けた。



 「起立!」

 高い声の号令によって、全員が立ち上がる。



 「礼!」

 「着席!」

みんなが席に座るのを、僕は見守った。
 意外とみんな真面目な子達のようだ。
とはいえ、生徒を前にして緊張の度合いはさらに増したけど、僕は懸命にポーカーフェイスを装った。
この子たちも、高校に入ったばかりできっと緊張しているはずだ。



 (そうそう、お互い様だ。
 僕ももっとリラックスしないとな。)



 「僕は赤坂俊介。
 今日からこのクラスを受け持つことになりました。
では、出席を取る。相川。相川早苗。」

 「はい!」

 声が震えないように気を付ける。
まだ顔を覚えられるようなゆとりはない。
とにかく、今は全員の名前を呼ぶこと。
 僕はそれだけに集中した。
その甲斐あって、なんとか問題なく生徒の点呼が続いた。
ついにあと一人で終わりだ。



 「和田。和田涼香。」

 「はい。」

 声のする方を見た僕は、さっと視線を逸らし…
そして、またその子に視線を戻した。



 (えっ!?)



その子の顔を見た時…僕の記憶は、一瞬で過ぎ去った遥か昔にワープした。



 (和田…和田澄香……)



それは、僕の初恋の人で、初めての彼女でもあった人…
今、僕の視線の先にいる生徒は、当時の和田澄香に瓜二つ…なんなら本人かと見紛う程似ていたんだ。



だけど、本人であるはずはない。
 彼女は僕と同い年、それに名前が違う。
でも、違うとはいえ、名前も似ている。



まさか、この子は…



さっきまでの緊張とは比べ物にならないくらい、僕は動揺しまくっていた。

 
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