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初旅行
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「これが池田屋の…」
彼は、うるんだ瞳で居酒屋をみつめた。
(……馬鹿みたい。居酒屋を見上げて感動するなんて、どうかしてるよ。)
彼と付き合い始めて約1年。
今回、初めての旅行…しかも、行き先は憧れの京都ってことで、私はめちゃめちゃ盛り上がっていたのだけれど、いざ着いてみたら、思ってたのとはまるで違った。
そう、この旅行は、私の思い描いていたロマンチックなものとは違い、新選組所縁の場所をめぐる歴史探訪の旅だったのだ。
彼が、新選組にハマり始めたのは、ほんの数か月前。
映画がきっかけだったみたい。
最近、やたらと新選組のことばっかり言ってるなとは思ったけれど、まさか、この旅行までが新選組のためだったなんて…
「里香、写真撮ってよ。」
「……はいはい。」
普通なら、ふたりで撮るよね?
だけど、彼は、新選組所縁の場所で、一人で写真を撮る。
ま、私もこんな居酒屋の前でなんて映りたくないけどさ。
「ねぇ、どこかでお茶でも飲もうよ。
歩き過ぎて足が痛くなって来たよ。」
「そう?じゃあ、どこかで休もうか。」
私達は、近くのカフェに入った。
彼は、コーヒーが冷めるのも気にせずに、今までに撮った画像や買ったお土産を見ては、ひとりでにやにやしてる。
本当に馬鹿みたい。
「あ、そうだ!京都って言ったら、生八つ橋だよね。
どこかで買って帰らなきゃ。」
「何言ってるんだよ。
京都って言ったら、屯所餅だろ。
俺は、さっき買ったけど。」
「何、それ?有名なお菓子なの?」
「当たり前だろ!京都っていったら、屯所餅だ!」
「ふぅーん…」
どうせそれも新選組関連のお菓子なんだろう。
お土産屋さんで、何か、手当たり次第に買ってたから。
それにしても、京都は寒い。
底冷えのする寒さだ。
「ねぇ、このあたりにショッピングセンターみたいなところはないか、調べてよ。」
「ショッピングセンター?なんで?」
「寒いから、なんか着るものを買おうと思って…」
私がそう言うと、彼はふふっと小さく笑って、その場で自分の着ていたセーターを脱いだ。
「……これ、着ろよ。」
彼はセーターを差し出す。
「え?だって……」
「大丈夫、俺は寒さなんかに負けないから。」
「……そうなの?」
なんだか大切にされてるみたいで、ちょっとだけ嬉しい気分になった。
セーターを着こんだら、セーターに移ってた彼の温もりがじわっと私を温めてくれて、イライラしていた私の気分も少しほぐれたような気がした。
「さ、次は三条河原な。」
「そうなんだ。」
「近藤勇の首がさらされてたとこな。」
「えーーーっ!!」
理想とは全く違う初めての旅行…
残念過ぎて、思わず溜め息がこぼれた。
彼は、うるんだ瞳で居酒屋をみつめた。
(……馬鹿みたい。居酒屋を見上げて感動するなんて、どうかしてるよ。)
彼と付き合い始めて約1年。
今回、初めての旅行…しかも、行き先は憧れの京都ってことで、私はめちゃめちゃ盛り上がっていたのだけれど、いざ着いてみたら、思ってたのとはまるで違った。
そう、この旅行は、私の思い描いていたロマンチックなものとは違い、新選組所縁の場所をめぐる歴史探訪の旅だったのだ。
彼が、新選組にハマり始めたのは、ほんの数か月前。
映画がきっかけだったみたい。
最近、やたらと新選組のことばっかり言ってるなとは思ったけれど、まさか、この旅行までが新選組のためだったなんて…
「里香、写真撮ってよ。」
「……はいはい。」
普通なら、ふたりで撮るよね?
だけど、彼は、新選組所縁の場所で、一人で写真を撮る。
ま、私もこんな居酒屋の前でなんて映りたくないけどさ。
「ねぇ、どこかでお茶でも飲もうよ。
歩き過ぎて足が痛くなって来たよ。」
「そう?じゃあ、どこかで休もうか。」
私達は、近くのカフェに入った。
彼は、コーヒーが冷めるのも気にせずに、今までに撮った画像や買ったお土産を見ては、ひとりでにやにやしてる。
本当に馬鹿みたい。
「あ、そうだ!京都って言ったら、生八つ橋だよね。
どこかで買って帰らなきゃ。」
「何言ってるんだよ。
京都って言ったら、屯所餅だろ。
俺は、さっき買ったけど。」
「何、それ?有名なお菓子なの?」
「当たり前だろ!京都っていったら、屯所餅だ!」
「ふぅーん…」
どうせそれも新選組関連のお菓子なんだろう。
お土産屋さんで、何か、手当たり次第に買ってたから。
それにしても、京都は寒い。
底冷えのする寒さだ。
「ねぇ、このあたりにショッピングセンターみたいなところはないか、調べてよ。」
「ショッピングセンター?なんで?」
「寒いから、なんか着るものを買おうと思って…」
私がそう言うと、彼はふふっと小さく笑って、その場で自分の着ていたセーターを脱いだ。
「……これ、着ろよ。」
彼はセーターを差し出す。
「え?だって……」
「大丈夫、俺は寒さなんかに負けないから。」
「……そうなの?」
なんだか大切にされてるみたいで、ちょっとだけ嬉しい気分になった。
セーターを着こんだら、セーターに移ってた彼の温もりがじわっと私を温めてくれて、イライラしていた私の気分も少しほぐれたような気がした。
「さ、次は三条河原な。」
「そうなんだ。」
「近藤勇の首がさらされてたとこな。」
「えーーーっ!!」
理想とは全く違う初めての旅行…
残念過ぎて、思わず溜め息がこぼれた。
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