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紫の石
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「玲子、お誕生日、おめでとう!」
「ありがとう。」
今日は私の誕生日。
三十を過ぎたら、誕生日はあまり嬉しくなくなって来る。
特に、彼氏もなく、これといった生きがいもなく、ただ生活のためだけに働いてる私にとって、年を取ることは苦痛でしかない。
だけど、温子はそんな私の気持ちには気付いてないみたい。
毎年、こうして祝ってくれる。
それはありがたいことなのだけど…
「はい、プレゼント。」
「ありがとう。」
「あ…開けてみてよ。」
彼女が差し出した小さな箱をそのままバッグに仕舞おうとしたら、それを彼女に制された。
「あ、いいの?じゃあ…」
悪いけど、そんなに期待してるわけじゃない。
だけど、彼女の好意だ。
私は、愛想笑いを浮かべながら、箱を開いた。
そこに入っていたのは、紫色の石で作られたブレスレットだった。
「わぁ、綺麗だね。」
それは嘘ではなかったけれど、パワーストーンなんて胡散臭いものはあまり好きじゃない。
でも、はっきりそう言うわけにもいかないし、一応、喜んでるふりをした。
「ねぇ、つけてみて。サイズもぴったりのはずだよ。」
「え?あ…あ、本当だ、ぴったり!」
「最近、玲子、あまり眠れないって言ってたから…
アメジストを身に付けると、よく眠れるらしいよ。」
「そうなんだ。ありがとう!早速、今夜から付けて寝るね!」
私は口先ばかりの言葉を並べ立てた。
*
(石にパワーなんてないってば。)
家に帰った私は、いつものようにワインを飲んだ。
最近は、本当に眠れなくて、ワインの力で酔っ払って無理に寝てるような感じだ。
(おかしいなぁ…)
その晩は、ワインを飲んでもなぜだか眠くならなかった。
その次も、そして、またその次の日も…
ワインを飲んでも少しも酔わない。
全く信じてなんてなかったけれど、半ば自棄くそで私はアメジストのブレスレットを腕に付けて横になった。
不思議なことに、横になって静かにしてたらいつの間にか朝まで熟睡していた。
でも、よく考えればここ数日は眠れてなかったから、きっとそのせいだ。
そう思いながらも、私はまたその夜もアメジストのブレスレットを付けて眠った。
「玲子、最近、お肌が綺麗になったんじゃない?」
「え?そんなことないと思うけど…」
いつの間にか、私の不眠は治っていた。
良く眠れるせいか、体調も良いし気分も良い。
そのおかげでか、化粧乗りも良くなった。
別に不眠が直ったのがアメジストのおかげだなんて信じたわけじゃないけれど、馴染んで来たのは事実で…いつしか私はアメジストのブレスレットをいつも身に付けるようになっていた。
「あの…良かったら、これ…」
「え?」
それは、ホワイトデーのこと。
隣の課の藤本さんが、私の目の前に小さな箱を差し出した。
「あ、あの…どなたかとお間違えになられてませんか?
私、あなたにチョコは渡してないはずですが…」
「はい、いただいてません。
……いけませんか?」
「……え?」
ちょっと変な人だなって思ったけど、でも、いやな気はしなかった。
アメジストに『素敵な恋人を招く』っていう言い伝えがあることを、この時の私はまだ知らなかった。
「ありがとう。」
今日は私の誕生日。
三十を過ぎたら、誕生日はあまり嬉しくなくなって来る。
特に、彼氏もなく、これといった生きがいもなく、ただ生活のためだけに働いてる私にとって、年を取ることは苦痛でしかない。
だけど、温子はそんな私の気持ちには気付いてないみたい。
毎年、こうして祝ってくれる。
それはありがたいことなのだけど…
「はい、プレゼント。」
「ありがとう。」
「あ…開けてみてよ。」
彼女が差し出した小さな箱をそのままバッグに仕舞おうとしたら、それを彼女に制された。
「あ、いいの?じゃあ…」
悪いけど、そんなに期待してるわけじゃない。
だけど、彼女の好意だ。
私は、愛想笑いを浮かべながら、箱を開いた。
そこに入っていたのは、紫色の石で作られたブレスレットだった。
「わぁ、綺麗だね。」
それは嘘ではなかったけれど、パワーストーンなんて胡散臭いものはあまり好きじゃない。
でも、はっきりそう言うわけにもいかないし、一応、喜んでるふりをした。
「ねぇ、つけてみて。サイズもぴったりのはずだよ。」
「え?あ…あ、本当だ、ぴったり!」
「最近、玲子、あまり眠れないって言ってたから…
アメジストを身に付けると、よく眠れるらしいよ。」
「そうなんだ。ありがとう!早速、今夜から付けて寝るね!」
私は口先ばかりの言葉を並べ立てた。
*
(石にパワーなんてないってば。)
家に帰った私は、いつものようにワインを飲んだ。
最近は、本当に眠れなくて、ワインの力で酔っ払って無理に寝てるような感じだ。
(おかしいなぁ…)
その晩は、ワインを飲んでもなぜだか眠くならなかった。
その次も、そして、またその次の日も…
ワインを飲んでも少しも酔わない。
全く信じてなんてなかったけれど、半ば自棄くそで私はアメジストのブレスレットを腕に付けて横になった。
不思議なことに、横になって静かにしてたらいつの間にか朝まで熟睡していた。
でも、よく考えればここ数日は眠れてなかったから、きっとそのせいだ。
そう思いながらも、私はまたその夜もアメジストのブレスレットを付けて眠った。
「玲子、最近、お肌が綺麗になったんじゃない?」
「え?そんなことないと思うけど…」
いつの間にか、私の不眠は治っていた。
良く眠れるせいか、体調も良いし気分も良い。
そのおかげでか、化粧乗りも良くなった。
別に不眠が直ったのがアメジストのおかげだなんて信じたわけじゃないけれど、馴染んで来たのは事実で…いつしか私はアメジストのブレスレットをいつも身に付けるようになっていた。
「あの…良かったら、これ…」
「え?」
それは、ホワイトデーのこと。
隣の課の藤本さんが、私の目の前に小さな箱を差し出した。
「あ、あの…どなたかとお間違えになられてませんか?
私、あなたにチョコは渡してないはずですが…」
「はい、いただいてません。
……いけませんか?」
「……え?」
ちょっと変な人だなって思ったけど、でも、いやな気はしなかった。
アメジストに『素敵な恋人を招く』っていう言い伝えがあることを、この時の私はまだ知らなかった。
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