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奇跡の年賀状・後編

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「マ、マジ!?」



 僕は、玄関で固まってしまった。
だって、奇跡みたいなことが起きたのだから。
 大きく深呼吸をして、部屋の中に入った。
こたつに足を突っ込んで、僕は、手に持った年賀状を確認した。



 新年の挨拶の後には『こちらこそ、今年からどうぞよろしくお願いします。』の文字。
 感動で胸が震える…



(……ありがとう!)



お正月気分がやや薄れて来た1月8日…僕の元に年賀状が届いた。
 来るとは思っていなかった年賀状が…



田舎から出て来て6年…
都会の暮らしにはなかなか馴染めなかった。
でも、田舎にはもう帰れない。



 年末のある日、スーパーの片隅に並べられていた年賀はがきに僕はなぜだか引き寄せられ、十枚の年賀はがきを買った。
だけど、僕には年賀状を出す相手なんていない。
 本当に馬鹿だ…
そう思いながらも、僕は新年の挨拶を書いた。
 書いてる間はなんとなく幸せな気分になれた。
まるで、僕には十人の友達がいるみたいな錯覚を感じた。



 (このはがきから、せめて友達でも出来たら…)



そんなことを思うと『今年からよろしくお願いします。』と書いていた。
 10枚の年賀はがきは書きあがった。
けれど…出す相手がいないのだ。



 (このままポストに投函するか?いや、そんなことをしたら僕のところに戻って来るだけだ。
では、どうすれば…?)



 新年を迎え、僕の気持ちは焦るばかりだった。
はがき10枚を無駄にしたところで、たいした問題は起きない。
このはがきはやはり捨てるしかないのか?
そう思った時…僕は不意にひらめいたのだ。



 初日の出と共に、僕は寒い朝の町へバイクを走らせた。
そして、ランダムに年賀はがきを郵便箱に投函したんだ。
もしかしたら、僕に年賀状をくれる人がいるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、僕はまだ薄暗い町の中を走り抜けた。



 家に戻って来てしばらくして…なんだか急に罪悪感と不安感のようなものにかられた。
 個人情報にはうるさい時代だというのに、僕は自分の住所や名前をさらした。
しかも、相手はどんな人かわからないのに…
はがきを受け取った相手も、怖いと思う。
 見ず知らずの僕からそんなはがきを受け取ったら、きっと気持ち悪いと思うはずだ。
 警察にでも訴えられたらどうしよう…!?



どうか、みんなが僕のしたことをスルーしてくれて、そして、早く忘れてくれるようにと僕は祈った。
けれど、心の奥底には未練がましい小さな期待もあった。



 一日が過ぎ、二日が過ぎ…
幸いなことに、僕のところには何も来なかった。
 大きな安堵と小さな落胆…



そんな中、届いた年賀状…
出してくれたのは、桜井景子という女性だった。
 嬉しくて…涙が込みあがってくるほどだった。
 桜井さんは、メアドも書いてくれていた。



なんて優しい人なんだろう?
 一体、どんな感じの人なんだろう?
 突然、友達になってほしいと打ったら、怖がられるだろうか?
そうだ…とにかくまずは年賀状のお礼を打とう。



この先、どうなるかはわからないけれど…今年は、良い年になりそうな…
そんな嬉しい予感に僕は、小さく身震いした。
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