290 / 401
許さない…
1
しおりを挟む
「恭子、おめでとう!」
「お幸せに…!」
フラワーシャワーの祝福の中、私は今までの人生で最高の幸せを噛み締めていた。
(これからも、私は幸せになる…!
誰よりも幸せに…!)
*
「じゃあ、待ってるからね。」
「うん、頑張ってね。」
夫となった輝と私は手を振り合った。
結婚式を済ませて早々に、彼はイギリスに行ってしまった。
向こうでの仕事に着手するためだ。
私は現地の準備が整い次第、向こうに行くことになっている。
新婚旅行も、今はまだお預けだ。
でも、そんなこと構わない。
私は、梁瀬グループの御曹司と結婚したのだから。
貧しくて惨めで不幸だった過去の私とはおさらばだ。
晴れやかな私の心の奥底に、ほんの少しだけ暗い闇があった。
(……美弥子……悪く思わないでね。
私はただ勝っただけ。
勝つ者がいれば負ける者がいるのは当然のことなんだから…)
美弥子と私は幼馴染で…
同じ施設で、姉妹のように育った親友だ。
「恭子…紹介するね。
梁瀬輝さん…今、私達、お付き合いをしてるの。」
恥ずかしそうに頬を赤く染めて…
美弥子は、私に輝を紹介してくれた。
その時は、心から祝福した。
美弥子は晩生で、今まで付き合った人もいなくて…
だから、幸せになってほしいと思った。
美弥子はそれからどんどん綺麗になっていった。
着るものや身に付けるものが高価なものになり、雰囲気がどんどん変わっていった。
聞けば、それらはみな、輝からのプレゼントだということだった。
その時から少しずつ美弥子に対して嫉妬のようなものを感じるようになって…輝が梁瀬グループの御曹司だと知ってからは、その嫉妬は理不尽な憎しみに変わっていた。
私と同じ、不幸な星の下に生まれた美弥子が幸せになろうとしている…
その事実が、私を酷く苛立たせた。
許せない!美弥子だけ幸せになるなんて、そんなこと…
その想いが私の心を埋め尽くした。
それから、私は行動を起こした。
嘘を吐き、女の武器を使い…あらゆる手段を用いて、美弥子と輝の仲を引き裂いた。
目的を達成しても、私はそこで留まることが出来なかった。
輝を自分のものにしたいという野望にかられ…そして、私はついにそれを成し得た。
美弥子はきっと私を憎んでいることだろう。
でも、それでも構わない。
私は、美弥子との友情よりも輝を選んだのだから。
(さて…と。
あ、いけない!払うものがあったんだ。コンビニに行かなきゃ!)
私は暗い道をコンビニに向かって歩き始めた。
このあたりは大きなお屋敷の連なる高級住宅街で、長く続く緑道に人通りは少ない。
「あっ!」
暗い夜空に、ぼんやりと浮かぶ青白い炎…
鬼火だ!
子供の頃に聞いたことがある。
この世に未練を残した人の魂が、彷徨っているのだと。
私は立ち止まり、鬼火をみつめた。
『……許さない…』
「え!?」
私はあたりを見渡した。
でも、そこには私以外誰もいない。
『……絶対に…許さない……』
鬼火の色が青から赤に変わり、大きく燃えながら私の方に向かって来た。
「な、なにを言ってるの?
わ、私が何をしたって……」
逃げようと思うのに、恐怖で足がすくんでなかなか走れない。
その間にも、炎はさらに大きく燃え上がる。
今の声が美弥子だということは直感的にわかっていた。
でも、その事実を認めることが怖かった。
まさか、美弥子は……不吉な想像に体が震える。
「や、やめて…!」
必死の想いで私は足を動かし、鬼火から遠去かろうとした。
しかし、鬼火は燃えながら私の後を追って来る。
まるで私を焼き殺そうとでもするかのように…
私は流れる涙を拭うゆとりも後ろを振り向く勇気さえもなく、ただただ前を向いて走り続けた。
もう少し行けば、コンビニのある通りに出る。
鬼火がそこまで追いかけて来るはずがない。
(あと少し……)
その時、私の目の前が目も眩むような光に覆われた。
「あぁーーーーっ!」
***
「お幸せに…!」
フラワーシャワーの祝福の中、私は今までの人生で最高の幸せを噛み締めていた。
(これからも、私は幸せになる…!
誰よりも幸せに…!)
*
「じゃあ、待ってるからね。」
「うん、頑張ってね。」
夫となった輝と私は手を振り合った。
結婚式を済ませて早々に、彼はイギリスに行ってしまった。
向こうでの仕事に着手するためだ。
私は現地の準備が整い次第、向こうに行くことになっている。
新婚旅行も、今はまだお預けだ。
でも、そんなこと構わない。
私は、梁瀬グループの御曹司と結婚したのだから。
貧しくて惨めで不幸だった過去の私とはおさらばだ。
晴れやかな私の心の奥底に、ほんの少しだけ暗い闇があった。
(……美弥子……悪く思わないでね。
私はただ勝っただけ。
勝つ者がいれば負ける者がいるのは当然のことなんだから…)
美弥子と私は幼馴染で…
同じ施設で、姉妹のように育った親友だ。
「恭子…紹介するね。
梁瀬輝さん…今、私達、お付き合いをしてるの。」
恥ずかしそうに頬を赤く染めて…
美弥子は、私に輝を紹介してくれた。
その時は、心から祝福した。
美弥子は晩生で、今まで付き合った人もいなくて…
だから、幸せになってほしいと思った。
美弥子はそれからどんどん綺麗になっていった。
着るものや身に付けるものが高価なものになり、雰囲気がどんどん変わっていった。
聞けば、それらはみな、輝からのプレゼントだということだった。
その時から少しずつ美弥子に対して嫉妬のようなものを感じるようになって…輝が梁瀬グループの御曹司だと知ってからは、その嫉妬は理不尽な憎しみに変わっていた。
私と同じ、不幸な星の下に生まれた美弥子が幸せになろうとしている…
その事実が、私を酷く苛立たせた。
許せない!美弥子だけ幸せになるなんて、そんなこと…
その想いが私の心を埋め尽くした。
それから、私は行動を起こした。
嘘を吐き、女の武器を使い…あらゆる手段を用いて、美弥子と輝の仲を引き裂いた。
目的を達成しても、私はそこで留まることが出来なかった。
輝を自分のものにしたいという野望にかられ…そして、私はついにそれを成し得た。
美弥子はきっと私を憎んでいることだろう。
でも、それでも構わない。
私は、美弥子との友情よりも輝を選んだのだから。
(さて…と。
あ、いけない!払うものがあったんだ。コンビニに行かなきゃ!)
私は暗い道をコンビニに向かって歩き始めた。
このあたりは大きなお屋敷の連なる高級住宅街で、長く続く緑道に人通りは少ない。
「あっ!」
暗い夜空に、ぼんやりと浮かぶ青白い炎…
鬼火だ!
子供の頃に聞いたことがある。
この世に未練を残した人の魂が、彷徨っているのだと。
私は立ち止まり、鬼火をみつめた。
『……許さない…』
「え!?」
私はあたりを見渡した。
でも、そこには私以外誰もいない。
『……絶対に…許さない……』
鬼火の色が青から赤に変わり、大きく燃えながら私の方に向かって来た。
「な、なにを言ってるの?
わ、私が何をしたって……」
逃げようと思うのに、恐怖で足がすくんでなかなか走れない。
その間にも、炎はさらに大きく燃え上がる。
今の声が美弥子だということは直感的にわかっていた。
でも、その事実を認めることが怖かった。
まさか、美弥子は……不吉な想像に体が震える。
「や、やめて…!」
必死の想いで私は足を動かし、鬼火から遠去かろうとした。
しかし、鬼火は燃えながら私の後を追って来る。
まるで私を焼き殺そうとでもするかのように…
私は流れる涙を拭うゆとりも後ろを振り向く勇気さえもなく、ただただ前を向いて走り続けた。
もう少し行けば、コンビニのある通りに出る。
鬼火がそこまで追いかけて来るはずがない。
(あと少し……)
その時、私の目の前が目も眩むような光に覆われた。
「あぁーーーーっ!」
***
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する
白バリン
ファンタジー
田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。
ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。
理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。
「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。
翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。
数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。
それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。
田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。
やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。
他サイトでも公開中
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
空間魔法って実は凄いんです
真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?
ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。
トロ猫
ファンタジー
仕事をやめ、なんとなく稼ぎながら暮らしていた白川エマ(39)は、買い物帰りに偶然道端で出会った虐待された少年と共に異世界に飛ばされてしまう。
謎の光に囲まれ、目を開けたら周りは銀世界。
「え?ここどこ?」
コスプレ外国人に急に向けられた剣に戸惑うも一緒に飛ばされた少年を守ろうと走り出すと、ズボンが踝まで落ちてしまう。
――え? どうして
カクヨムにて先行しております。
夢の硝子玉
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
少年達がみつけた5色の硝子玉は願い事を叶える不思議な硝子玉だった…
ある時、エリオットとフレイザーが偶然にみつけた硝子玉。
その不思議な硝子玉のおかげで、二人は見知らぬ世界に飛ばされた。
そこは、魔法が存在し、獣人と人間の住むおかしな世界だった。
※表紙は湖汐涼様に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる