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ふたりっきりのマジック

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「キャーーーー!」

 「ブラボーーー!」



 歓声と共に、さざ波のような拍手が、会場の中に広がった。
ついに俺は、夢を叶えた。
 子供の頃からの夢だった、マジシャンになるという夢…
そして、海外の公演を成功させるという夢を…!



 俺の芸名は、愛嵐アラン
将来的には世界中で活動したいと思っていたから、海外の人に馴染みやすい名前で、だけど、日本人ということを忘れないように漢字にしたのだ。
この芸名を思いついたのは、中学生の頃だった。
 今、考えてみれば、子供のような発想だとも思えるが、この名前とも長年付き合って来て、いまや俺は本名よりも愛嵐の方がしっくり来るくらいだ。



 *



 「おめでとう、愛嵐!」

 「ありがとう!」



 帰国後、最初に会ったのは、恋人の綾だ。
 雰囲気の良いイタリアンの店の個室で、俺達は、ワイングラスを合わせた。



 「ついに、あなたの夢が叶ったのね。」

 「あぁ…まさか、あんなにたくさんの客が入ってくれるなんて思ってなかったし、反応も想像以上だった。」

 「メディアでも、あなたの噂でもちきりよ。」

 「本当に嬉しいよ。」



 俺達は、夜景の見える部屋で、他愛ない会話を交わしながら食事を楽しんだ。



 「あれ?」

 「何?」

 綾が顔を上げた瞬間、紙飛行機が綾の前に着地した。
 実は、これは俺が綾の目を盗んで飛ばしたものだ。



 「どこから飛んで来たのかしら?」

 「綾、その紙飛行機…広げてみなよ。」

 「え?」

 言われるままに、綾は紙飛行機を開いた。



 「まぁっ!」

 綾は、その紙を見て驚いた様子だった。
それも当然のこと。
その紙は、婚姻届けだったのだから。
あとは、綾が書きこむだけになっている。



 「それから……」

 俺は、片手をあげて宙を掴み、綾の前に手の平を差し出した。
そこに乗っているのは、キラキラ輝くダイヤの指輪だ。



 「綾……これを受け取ってほしい。」

 「愛嵐…!」

 綾の瞳はゆらゆらと揺れていた。
 俺は、彼女を引き寄せ、唇を重ねた。
 彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれる…
俺も、なんだか胸がいっぱいになってきた。
 彼女と付き合い始めてはや7年…彼女はずっと俺の成功を信じて、ついてきてくれた。
 7年間の記憶が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。



 「綾…絶対幸せにするから…」

 俺は、綾の薬指に、指輪をさした。
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