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スナック『けいこ』
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「えー…やっぱり、それはないんじゃないですか?」
「そんなことないわよ。
遠くからでもけっこう目立つし、絶対良いってば。」
「そうですか~?」
ここは、スナック『けいこ』
つい一週間程前から、私はここでアルバイトを始めた。
留学に行くための資金稼ぎだ。
なんでも、ここは以前『よしこ』というスナックだったらしい。
よしこママが二年程前に亡くなり、それと同時にけいこママがこの店を受け継いで、それで店名も『けいこ』に変えたということだった。
でも、長引く不況の昨今、『けいこ』に来てくれるお客さんは少なくなっていて…
けいこママは、なんとかお客を増やそうと日々頑張っている。
さっきつるした赤提灯も、お客を呼ぶための苦肉の策だ。
でも、スナックに赤提灯なんて…
却って、逆効果じゃないかって私は思っているのだけど…
「ねぇ、ユキちゃん、おでんの具ってどんなのがあったかな?」
「おでん…ですか?」
お客さんが来なくて暇な時間、けいこママがそんなことを訊ねて来た。
「えっと…大根、たまご、はんぺん、たまご……」
「うんうん。」
「ごぼう天に、牛筋、じゃがいも……」
「ねぇ、ユキちゃん。
およそおでんには入れないようなものを入れて作った変わりおでんを出すのってどうかしら?
珍しさでお客さんが増えるんじゃない?」
またけいこママがおかしなことを言い始めた。
けいこママの発想はどうもいつも、ピントはずれのものばかりだ。
「そんなことをするより、美味しいおでんを出した方がお客さんに気に入ってもらえるんじゃないですか?」
「何言ってんのよ、おでんなんてどこも似たりよったり。
温かければそれで良いってもんじゃない。」
「そんなことありません!
おでんにはもちろん美味しいものとそうじゃないものがあります。
美味しいおでんがあればお酒も進みますし、おかしなおでんを出すより、普通に美味しいおでんを出した方が絶対にお客さんは呼べますって!」
つい、熱くなってしまったのは、私がおでんにこだわりを持っているからかもしれない。
亡くなったおばあちゃんの作るおでんは本当に美味しかった。
中学生の頃、おばあちゃんからおでんの作り方を教わった。
最初はなかなかうまく出来なかったけど、何度か作っているうちにようやくおばあちゃんの味に近いおでんが作れるようになった。
「うん、うまく出来てる。美味しいよ。」
そう言ってくれたのは、おばあちゃんが亡くなる前の年だった。
「そうかしらねぇ…」
「絶対にそうです!明日、私におでんを作らせて下さい!」
私は、勢いに任せてそんなことを口走っていた。
「そんなことないわよ。
遠くからでもけっこう目立つし、絶対良いってば。」
「そうですか~?」
ここは、スナック『けいこ』
つい一週間程前から、私はここでアルバイトを始めた。
留学に行くための資金稼ぎだ。
なんでも、ここは以前『よしこ』というスナックだったらしい。
よしこママが二年程前に亡くなり、それと同時にけいこママがこの店を受け継いで、それで店名も『けいこ』に変えたということだった。
でも、長引く不況の昨今、『けいこ』に来てくれるお客さんは少なくなっていて…
けいこママは、なんとかお客を増やそうと日々頑張っている。
さっきつるした赤提灯も、お客を呼ぶための苦肉の策だ。
でも、スナックに赤提灯なんて…
却って、逆効果じゃないかって私は思っているのだけど…
「ねぇ、ユキちゃん、おでんの具ってどんなのがあったかな?」
「おでん…ですか?」
お客さんが来なくて暇な時間、けいこママがそんなことを訊ねて来た。
「えっと…大根、たまご、はんぺん、たまご……」
「うんうん。」
「ごぼう天に、牛筋、じゃがいも……」
「ねぇ、ユキちゃん。
およそおでんには入れないようなものを入れて作った変わりおでんを出すのってどうかしら?
珍しさでお客さんが増えるんじゃない?」
またけいこママがおかしなことを言い始めた。
けいこママの発想はどうもいつも、ピントはずれのものばかりだ。
「そんなことをするより、美味しいおでんを出した方がお客さんに気に入ってもらえるんじゃないですか?」
「何言ってんのよ、おでんなんてどこも似たりよったり。
温かければそれで良いってもんじゃない。」
「そんなことありません!
おでんにはもちろん美味しいものとそうじゃないものがあります。
美味しいおでんがあればお酒も進みますし、おかしなおでんを出すより、普通に美味しいおでんを出した方が絶対にお客さんは呼べますって!」
つい、熱くなってしまったのは、私がおでんにこだわりを持っているからかもしれない。
亡くなったおばあちゃんの作るおでんは本当に美味しかった。
中学生の頃、おばあちゃんからおでんの作り方を教わった。
最初はなかなかうまく出来なかったけど、何度か作っているうちにようやくおばあちゃんの味に近いおでんが作れるようになった。
「うん、うまく出来てる。美味しいよ。」
そう言ってくれたのは、おばあちゃんが亡くなる前の年だった。
「そうかしらねぇ…」
「絶対にそうです!明日、私におでんを作らせて下さい!」
私は、勢いに任せてそんなことを口走っていた。
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