252 / 401
どっち!?
1
しおりを挟む
「おや…?今日はやけに可愛い姿をしているのだな。」
「……あぁ、あんたが来るって聞いたからな。」
「私が来たら、なぜ、その姿なのだ?」
「……そんなことはどうでも良い。」
「そうだな。確かにその姿の方が可愛らしくて良い。」
俺がそう言うと、奴はくすりと笑った。
本当にいけ好かない奴だ。
以前、奴と会ったのはいつだっただろう?
おそらく何百年も前のことだ。
その時、俺は奴に散々けなされた。
着ているものの趣味が悪いだの、陰気だの、人間に怖がられそうだのと…
そうでなくとも、俺達の心の奥底には、奴らにコンプレックスのようなものがある。
奴らは善であり、俺達は悪…
奴らが光なら、俺達は闇だ。
人間共だって、態度を変える。
奴らに迎えに来られた者たちは、けっこうすぐに納得するし、穏やかな気持ちでついて来るが、俺達が行くと、泣いたりわめいたり、俺達を罵倒する奴もいる。
全く、損な役回りだ。
「おぉ、奴が動き出したぞ。」
「わかってらい。」
「なんなら抱いて行ってやろうか?」
「大きなお世話だ!」
今日のターゲットは、吉田隼人48歳。
奴が生きている時間は、あと数時間だ。
今のところ、奴の積んだ徳と悪行は全くの五分で、そのためどちらに逝くか、まだ決まっていないのだ。
こんなことは滅多にないのだが、ごくたまに発生する。
そのため、今、ここには俺とあいつが来ているというわけだ。
残された時間で、奴はどちらに傾くのか…
俺たちは、ターゲットの後を付け回した。
善行をしたかと思うと、悪いことをする。
善悪のメーターは、なかなか勝負を付けない。
「おばあさん、俺が持ちますよ。」
「え?良いんですか?」
横断歩道の前で、吉田は両手に大きな荷物を持った老婆に声をかけた。
本当に奴は親切心でそう言ったのか、はたまた荷物を持ち逃げするつもりなのか…
奴の時間はあとわずかだ。
きっと、これで決着が付くだろう。
「今日は、私の仕事になりそうだな。」
「そんなこと、まだわかるもんか。」
吉田は、荷物を持って横断歩道を歩き始めた。
老婆は吉田の後を少し遅れてついて行く。
歩けば歩くほど、ふたりの距離は離れて行く。
老婆を振り切って荷物を持ち逃げするのはたやすいことだ。
吉田が向こう側に着き、荷物を降ろして振り向いた。
その時、まだ横断途中だった老婆の元へ、一台の車が走り込んできたのだ。
「危ないっ!」
吉田は老婆に駆け寄り、突き飛ばした。
*
あ~あ…
やっぱり、また俺は負けてしまった。
吉田は、あいつと共に光に包まれ、天に昇って行った。
黒猫になんか姿を変えて来た自分自身が、酷く哀れに思えた。
次からはいつも通りにしていこう…
もう見えなくなった二人を見上げながら、俺は心に誓った。
「……あぁ、あんたが来るって聞いたからな。」
「私が来たら、なぜ、その姿なのだ?」
「……そんなことはどうでも良い。」
「そうだな。確かにその姿の方が可愛らしくて良い。」
俺がそう言うと、奴はくすりと笑った。
本当にいけ好かない奴だ。
以前、奴と会ったのはいつだっただろう?
おそらく何百年も前のことだ。
その時、俺は奴に散々けなされた。
着ているものの趣味が悪いだの、陰気だの、人間に怖がられそうだのと…
そうでなくとも、俺達の心の奥底には、奴らにコンプレックスのようなものがある。
奴らは善であり、俺達は悪…
奴らが光なら、俺達は闇だ。
人間共だって、態度を変える。
奴らに迎えに来られた者たちは、けっこうすぐに納得するし、穏やかな気持ちでついて来るが、俺達が行くと、泣いたりわめいたり、俺達を罵倒する奴もいる。
全く、損な役回りだ。
「おぉ、奴が動き出したぞ。」
「わかってらい。」
「なんなら抱いて行ってやろうか?」
「大きなお世話だ!」
今日のターゲットは、吉田隼人48歳。
奴が生きている時間は、あと数時間だ。
今のところ、奴の積んだ徳と悪行は全くの五分で、そのためどちらに逝くか、まだ決まっていないのだ。
こんなことは滅多にないのだが、ごくたまに発生する。
そのため、今、ここには俺とあいつが来ているというわけだ。
残された時間で、奴はどちらに傾くのか…
俺たちは、ターゲットの後を付け回した。
善行をしたかと思うと、悪いことをする。
善悪のメーターは、なかなか勝負を付けない。
「おばあさん、俺が持ちますよ。」
「え?良いんですか?」
横断歩道の前で、吉田は両手に大きな荷物を持った老婆に声をかけた。
本当に奴は親切心でそう言ったのか、はたまた荷物を持ち逃げするつもりなのか…
奴の時間はあとわずかだ。
きっと、これで決着が付くだろう。
「今日は、私の仕事になりそうだな。」
「そんなこと、まだわかるもんか。」
吉田は、荷物を持って横断歩道を歩き始めた。
老婆は吉田の後を少し遅れてついて行く。
歩けば歩くほど、ふたりの距離は離れて行く。
老婆を振り切って荷物を持ち逃げするのはたやすいことだ。
吉田が向こう側に着き、荷物を降ろして振り向いた。
その時、まだ横断途中だった老婆の元へ、一台の車が走り込んできたのだ。
「危ないっ!」
吉田は老婆に駆け寄り、突き飛ばした。
*
あ~あ…
やっぱり、また俺は負けてしまった。
吉田は、あいつと共に光に包まれ、天に昇って行った。
黒猫になんか姿を変えて来た自分自身が、酷く哀れに思えた。
次からはいつも通りにしていこう…
もう見えなくなった二人を見上げながら、俺は心に誓った。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる