1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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美味しいごはん

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「わぁ、すごいすごい!
いっぱい出てきたよ!」

 雅也は、無邪気にそう言って、顔を綻ばせた。



 「早く食べてみたいね。」

 「……そうだね。」

 私としてはちょっと複雑な想いだ。
このお米を作るのに、一体どのくらいの苦労があったのか、雅也にはきっとわかってないと思うから。



 「ねぇ、今度はお米を作ってみない?」

うちで育てた野菜で作った料理は、私の両親にも雅也の両親にもすごく好評だった。
 実った野菜は、見た目も味もスーパーで売ってるのと比べても遜色のない程の出来だった。
それは、偏に私の日々の努力のおかげだと思ってる。
 雅也は、ほとんどなにもしてないんだから。
そりゃあ、三時間近くかけて毎日通勤してるのは気の毒だとは思うけど、田舎に住みたいって言い出したのは雅也だし、休みの日は疲れたって言って寝てばかりで、畑の事なんて何もしてくれなかったんだから。
なのに、今度は米?
そんなの無理無理!



 「お米はさすがに無理でしょう。」

 「それが無理じゃないんだ。
 田んぼの貸し出しから、お米作りまで教えてくれる農家さんがいてね。
 実は、もう頼んで来たんだ。」

 「えーーーっ!?」

 思った通り、今回も雅也はほとんどなにもしなかった。
 田植えから、稲刈り…すべて私がやった。
 田植えも稲刈りも、全部人力だから、腰が折れるんじゃないかって思うくらいの重労働だった。
 農家さんは親切なおじさんで、なにもわからない私にとても丁寧に教えてはくれたけど…
なんで、私、こんなことやってるんだろう!?って、何度も思ったよ…
これもすべては雅也のせいなんだ!



 刈り取った稲を天日干ししてから…
ようやく雅也が手伝うと言い出した。
 三連休の日のことだ。



 借りて来た脱穀機で、稲を脱穀する。
 脱穀なんて、今までの作業に比べものにならないくらい楽な作業だから、雅也は遊びみたいににこにこしながらやっている。



 「たくさん出来たね!」

 「そうだね。」

 「あぁ、これが収穫の喜びってやつか!」

 雅也の言葉にイラっとしながらも、奥歯を噛み締めて私は微笑む。
なにもしてないくせに、何が収穫の喜びだ!
 「私がどれだけ苦労して来たか、お前はわかってるのか~!」と、心の中でシャウトした。



 *



 「とってもおいしいね。」

 「……うん。」

 自分で作ったお米を食べていると、苦労の日々が思い出されて胸がいっぱいになった。



 「こんなにおいしいご飯が食べられるのは、美里のおかげだね。」

 「え?」

その一言で、今までの苦労が報われたような気がした。
あぁ、私ってなんて単純な女なんだろう。
 今日のごはんはちょっとしょっぱいけど、最高の味だ。



 来年もまた米を作ろうと…私は心の中でそんなことを思っていた。
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