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親子寿司

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(やっぱり、日本の寿司はうまいな…)



 一皿百円でもこの味だ。
 日本は良い!最高だ。



 俺は、ニューヨークの寿司レストランで食べた寿司のことを思い出した。
 毒々しい色合い…
寿司とは思えないスパイシーな味…
特に、生クリームやチョコや肉の入った手巻き寿司は地獄だった。



ギリギリの生活の中で、清水の舞台から飛び降りるようなつもりで入った人気の寿司レストランは、まさに悪夢以外の何者でもなかったな。
しかも、値段も馬鹿高かった。
ニューヨークに住んだ五年の間で、一番強烈な記憶がこれだっていうのが本当に情けない。



 世界一のダンサーになる…!
そんな夢を抱いて向かったニューヨーク…
田舎者の両親は、俺がまるで宇宙にでも行くかのように嘆き悲しんだ。
そんな遠い所に行ったら、何かあっても会いに行けないと、まるで今生の別れのように涙を流す両親を振り切り、俺はニューヨークに向けて旅立った。



だけど、そこで俺が知ったのは、自分がいかに身の程知らずだったかということ。
 俺には、世界一どころか、日本一になれるだけの実力もなかった。
 嫌という程そのことを突きつけられたけど、プライドが邪魔をして帰るに帰れず、死に物狂いで五年耐えて、そしてボロ雑巾のようになった。
 金もなく、精神的にも追い詰められていた俺は、情けないことに両親に救いを求めた。
 両親は、何も言わず俺のSOSに応えてくれた。
 両親にとっては宇宙みたいに思われるニューヨークに、ふたりで俺を迎えに来てくれたんだ。
やつれた二人の顔を見た時、俺は涙が止まらなかった。



 自然しかない俺の故郷と両親と時間が、傷だらけになった俺の心を癒してくれた。
 俺はダンサーになる夢を叶えることは出来なかった。
だけど、父さんは言ってくれたんだ。
また違う夢を探せば良いって。



 言われてみればそうかもしれない。
 自然しかないこの田舎でも、探せば叶えられる夢はあるのかもしれない。



 「父さん…あなご食べる?」

 「あぁ、取ってくれ。」



 車で一時間のこの回転寿司に、親子で来るのが最近のささやかな楽しみだ。
あんなにへんてこりんな寿司が、あんなに馬鹿高いのに、いつもお客がいっぱいだなんて、あの町はまともじゃない。



 (帰って来て良かった…)



 強がりかもしれないが、俺はそう思った。
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