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祭りの夜

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「晴れて良かったなぁ。」

 「これなら、今夜のお祭りはあるよね?」

 「あぁ、多分な。」



 盆休みには、息子と共に田舎に帰る。
 毎年のことだが、息子は飽きることもなく、喜んでくれる。
 中でも、盆踊りの祭りを楽しみにしているようだ。
 今年は、台風が来たから、もしかしたら中止かもしれないと思ったが、幸い、たいした被害もないまま、夜のうちに通り過ぎてくれた。
この分だと、きっと祭りはあるだろう。



 俺の予想は外れなかった。
 夜には、盆踊りのお囃子の音が鳴り響く。



 「じいちゃん、父さん、はやくはやく!」

 息子は駆け出し、俺と父に忙しなく手招きをする。



 「先に行ってろ。父さんたちはゆっくり行くから。」

 父は足が悪い。
とても息子には着いていけない。



 「敦は本当に祭りが好きだな。」

 「あぁ、あっちにはこういう祭りがないからな。」

 確か、昨年も同じような会話を交わした気がする。
 息子の姿はどんどん小さくなり、お囃子の音は大きくなっていく。



 「おまえ…まだ良い人はみつからないのか?」

 「まぁな…」

 「なんでだろうな。
おまえは見てくれも良いし、中身も良い奴なのにな。」

そう、これもまた昨年と同じ会話だ。
 俺は、ただ黙って苦笑いを浮かべる。



 祭りの会場は、神社の近くの空き地だ。
 子供の頃、ここで良く遊んだ。
あの頃から、もうかなりの時が流れたというのに、このあたりの風景は少しも変わっていない。



 提灯の明かりが闇を照らし、出店が軒を連ねる。
 浴衣を着た若い娘達が笑いながら俺達の前を通り過ぎて行った。
 息子はどこへ行ったのやら…
多分、出店のどこかだろう。
 出かける前、ばあちゃんに小遣いをもらってたから。



 「……今でも、甲子園の土は神棚に供えてるんだ!」



 出店の一角で、近所の吉村さんがビールを片手に大きな声で話してる。
 優勝は逃したが、昔、高校野球で甲子園まで行ったことがあるっていうのが、吉村さんの自慢だ。
 子供の頃から、何度その話を聞かされたかわからない。



 (今もまだ話してるんだな…)



 俺は思わず失笑した。



 「父さーん!じいちゃーん!」



 綿あめを手に持った息子が、俺たちに手を振りながら駆けて来る。
 父は目を細め、息子に手を振り返す。



こんな穏やかな時間が、いつまでも続けば良いと…
そんなことを思いながら、俺はそっと空を見上げた。

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