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慎吾さん

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「あぁ…綺麗な夕焼け…」



 慎吾さんの端正な横顔が赤く染まる。



 今でもまだどこか信じられない。
 慎吾さんとこうして一緒に行動していることが…



慎吾さんは、大きなお花屋さんの息子さん。
この町に越して来てから、何度かそこに立ち寄るうちに、私は慎吾さんに惹かれるようになった。
イケメンだからじゃない。
 私が惹かれたのは、慎吾さんの屈託のない笑顔。
 花を見る時の、その優しい笑顔に、私はいつしか恋をしていた。



でも、私は期待なんてしてなかった。
 慎吾さんはただの憧れの人…
そのはずだったのに、私達は何となく気が合って、気が付けば、デートをすることになっていた。



 映画を見て、お茶を飲んで、ショッピングをして、お昼ごはんを食べて…
基本のようなデートだった。
 多少の緊張はありつつも、気持ちは意外と落ち着いていた。



それから、慎吾さんは急に「ちょっと歩こうか?」って言いだして…
慎吾さんについて歩いてるうちに、あたりは暗くなった。
ちょっとどころか、1時間はゆうに歩いてたもの。
お互い、何を話すでもなく…でも、決して気まずくはない不思議な沈黙…



「ゆうや~けこやけ~の赤と~ん~ぼ~」



 (……え?)



 夕焼けを見ながら、慎吾さんが歌ってる。
 低い響く声で…
慎吾さんは、本当にマイペースだ。
 悪くいえば、不思議ちゃん??
でも、そういうところがまた慎吾さんの魅力でもある。
 慎吾さんの歌は続く。
 私の知らない歌詞…そっか、『赤とんぼ』って、こんな歌詞だったんだとか思いながら、慎吾さんの歌を黙って聞いていた。



 「赤とんぼの歌って、なんか寂しいよね?」

 「え?そ、そうですね。」

 「お腹減ったよね?」

 「え?あぁ、そうですね。
じゃあ、ご飯でも食べましょうか?」



そんなことを話してる時、一匹のセミが飛んで来て…
慎吾さんは、そのセミを親指と人差し指で、優雅に捕えた。



そして、ポケットからライターを取り出すと、セミをその火であぶり始めた。



 (えっ!?)



 慎吾さんの残虐な一面に驚いて、茫然と見ていたら…



(わっ!)



 慎吾さんは、あぶったセミをおもむろに口の中に放り込んだ。
 私は、何も言えずにただただ固まって、慎吾さんを見てた。



 「本当だ。セミって美味しいんだね。」

 「え?」

 「ネットで見たんだ。
あぶったセミはうまいって。」

 「そ、そうなんですか…」

 「夜は、何食べる?」

 「え?えっと…私はなんでも…」



いや、何でもって言ってもセミはいやだけど…



さっきは、意外な一面を見てしまったけれど…
それでも、やっぱり私は慎吾さんが好き。

 
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