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私の仕事
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「タクシー!」
通りで手を挙げ、私はタクシーを停めた。
「このあたりの麺屋に行って下さい。」
「麺屋?ラーメンですか?うどん?そば?」
「……全部。」
「ぜ、全部!?」
運転手さんはわざわざ振り向いて、私の顔を見た。
そりゃあ、そうだろう。
麺屋全部なんて言うお客は、そうはいないはずだ。
こんなことになったのは、私の担当ミュージシャン・真名瀬次郎のせいだ。
コンサートが済み、真名瀬は、そのまま夜の街に繰り出した。
真名瀬はみんなでの打ち上げよりも、ひとり飲みが好きだ。
私が同行するのさえ嫌がる。
それはまぁ良いとしても、機嫌が良いとついつい深酒になってしまう。
昨夜がそれだ。
真名瀬は、昨夜、記憶をなくすほど飲んで、こともあろうに、大事なバイオリンをどこかに忘れてきたというのだ。
あのバイオリンがいくらするか、真名瀬だって知ってるはずなのに、今朝の真名瀬と来たら、悪びれた様子もなく
「藤沢~…バイオリン、どこかに忘れて来ちゃった。」
そう言って、笑った。
私はカッとする気持ちをなんとか堪え、昨夜の事情を聞いてみれば、麺を食べたことだけ覚えてた。
だけど、麺の種類さえ覚えてないっていう。
いつだってそう。
真名瀬の尻拭いは、マネージャーの私の仕事。
だから、今日も私はこうしてタクシーに乗る。
今回は割と小さな都市だから、飲食店も都会よりは少ない。
それでも、やっぱり探すのは大変だ。
「ありがとうございました。もし、みつかったら、こちらにご連絡お願いします。」
私は名刺を手渡した。
ないないない。
何軒探してもみつからない。
警察にも当然届けは出してるけれど、まだ何の連絡もない。
(困ったなぁ…)
バイオリンは置いていけっていうのに、バイオリンは僕の相棒だからって、離さない。
(私の言うことを聞かないから、こんなことになるんだ!)
心の中で毒を吐きながら、私は麺屋をまわり続けた。
「お客さん、このあたりの麺屋はもうこれ以上ありませんよ。」
「そう…ですか。」
真名瀬は会場からタクシーで10分くらいの飲み屋街で麺を食べたと言ってたけど、その記憶がそもそも間違いなのかもしれない。
疲れた私は、目に付いた喫茶店に入った。
古めかしい昭和の純喫茶だ。
「あっ!」
入った途端に、私は声をあげた。
なぜなら、レジ横に見慣れたバイオリンのケースがあったから。
「いらっしゃい。」
「あ!これ、昨夜、この人が持ってきませんでしたか?」
私はスマホにある真名瀬の画像を店主に見せた。
「そうだ!間違いない。この人だ。」
話を聞いてみると、昨夜、べロベロに酔った真名瀬が来て、店は閉店してるのにも関わらず、扉を叩き続け、無理矢理店に入ってきて、ラーメンが食べたいと言ったらしい。
仕方なく店主は、インスタントラーメンを作って出してくれたのだと言う。
「交番に持っていこうと思ってたところだったんだ。」
「本当にどうもありがとうございました。」
見つかったのはよかったけれど、手間をかけさせやがって、真名瀬の奴…どうしてくれよう?
怒りに燃えながら、私は喫茶店を後にした。
通りで手を挙げ、私はタクシーを停めた。
「このあたりの麺屋に行って下さい。」
「麺屋?ラーメンですか?うどん?そば?」
「……全部。」
「ぜ、全部!?」
運転手さんはわざわざ振り向いて、私の顔を見た。
そりゃあ、そうだろう。
麺屋全部なんて言うお客は、そうはいないはずだ。
こんなことになったのは、私の担当ミュージシャン・真名瀬次郎のせいだ。
コンサートが済み、真名瀬は、そのまま夜の街に繰り出した。
真名瀬はみんなでの打ち上げよりも、ひとり飲みが好きだ。
私が同行するのさえ嫌がる。
それはまぁ良いとしても、機嫌が良いとついつい深酒になってしまう。
昨夜がそれだ。
真名瀬は、昨夜、記憶をなくすほど飲んで、こともあろうに、大事なバイオリンをどこかに忘れてきたというのだ。
あのバイオリンがいくらするか、真名瀬だって知ってるはずなのに、今朝の真名瀬と来たら、悪びれた様子もなく
「藤沢~…バイオリン、どこかに忘れて来ちゃった。」
そう言って、笑った。
私はカッとする気持ちをなんとか堪え、昨夜の事情を聞いてみれば、麺を食べたことだけ覚えてた。
だけど、麺の種類さえ覚えてないっていう。
いつだってそう。
真名瀬の尻拭いは、マネージャーの私の仕事。
だから、今日も私はこうしてタクシーに乗る。
今回は割と小さな都市だから、飲食店も都会よりは少ない。
それでも、やっぱり探すのは大変だ。
「ありがとうございました。もし、みつかったら、こちらにご連絡お願いします。」
私は名刺を手渡した。
ないないない。
何軒探してもみつからない。
警察にも当然届けは出してるけれど、まだ何の連絡もない。
(困ったなぁ…)
バイオリンは置いていけっていうのに、バイオリンは僕の相棒だからって、離さない。
(私の言うことを聞かないから、こんなことになるんだ!)
心の中で毒を吐きながら、私は麺屋をまわり続けた。
「お客さん、このあたりの麺屋はもうこれ以上ありませんよ。」
「そう…ですか。」
真名瀬は会場からタクシーで10分くらいの飲み屋街で麺を食べたと言ってたけど、その記憶がそもそも間違いなのかもしれない。
疲れた私は、目に付いた喫茶店に入った。
古めかしい昭和の純喫茶だ。
「あっ!」
入った途端に、私は声をあげた。
なぜなら、レジ横に見慣れたバイオリンのケースがあったから。
「いらっしゃい。」
「あ!これ、昨夜、この人が持ってきませんでしたか?」
私はスマホにある真名瀬の画像を店主に見せた。
「そうだ!間違いない。この人だ。」
話を聞いてみると、昨夜、べロベロに酔った真名瀬が来て、店は閉店してるのにも関わらず、扉を叩き続け、無理矢理店に入ってきて、ラーメンが食べたいと言ったらしい。
仕方なく店主は、インスタントラーメンを作って出してくれたのだと言う。
「交番に持っていこうと思ってたところだったんだ。」
「本当にどうもありがとうございました。」
見つかったのはよかったけれど、手間をかけさせやがって、真名瀬の奴…どうしてくれよう?
怒りに燃えながら、私は喫茶店を後にした。
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