1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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雨の日は…

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空は重苦しい鉛色…

もう七年も経つっていうのに、雨の日には今でもふと思い出してしまう。
ある雨男のことを…



***



 「来なくて良いって言ったのに…」

 「そんなの私の勝手でしょ。」



 彼は、やっぱり本気だ。
もしかしたら……
そんな儚い希望を胸にここまでやってきたけれど、彼の気持ちは変わらないみたいだ。



 「じゃあ…そろそろ行くから。」

 「……元気でね。」

 「おまえもな……」



 彼は一度も振り返らなかった。
でも、その方が良かった。
その時、私は外の雨よりも酷い涙を流していたから。



 ***



 「沙織…俺、やっぱりフランスに行く!」

 亨がそんなことを言い出したのも、雨の日だった。



 「え?でも…絵の勉強なら、日本にいても出来るんじゃないの?」

 「沙織…俺は本気で画家になりたいんだ。
そのためにはやっぱり本場で修業しないとな。」

 亨の夢を応援したいとは思ったけれど…そうも思えなくなった。
なぜなら、彼は私と別れるって言い出したのだから。



 「どうして?どうして別れなきゃならないの?
 他に好きな人でも出来たの?」

 「そんな奴いない。
ただ、俺は本気で絵を勉強したいから。」

 「だったら、別れることなんてないじゃない!」

 「俺の修行はいつ終わるかわからないんだ。
だから、別れる。」

 「私、待つから…いつまでだって待つから…」

 「そんなこと、させられない。」



 彼の決意は固かった。
 私は何度も説得したけれど、彼の気持ちが変わることはなかった。



そして、土砂降りの雨の日…
彼は、フランスに向かって旅立った。



 落ちて…落ちて…どん底まで落ち込んで、特に雨の日は、ただそれだけで気分が酷く落ち込んで、体調も悪くなるし、いつも泣いてばかりいた。
そこから何年もかかってやっと立ち直って…
今は、雨の日にも泣くことはなくなった。



だけど、今でも雨の日には想ってしまう…どうしても思い出してしまう。
 雨男の彼のことを…



(え……)



 雑踏の中に、彼に似た後ろ姿をみつけた。
そんなはずなんてないのに…
七年も経ったのにまだ彼を忘れられないなんて、私はなんてしつこい女なんだろう?
 思わず、苦い笑みが浮かぶ。



 彼に似た後ろ姿の男性が、不意に立ち止まり、そして、後ろを振り向いた。
その顔を見た途端、私の笑みが消えた。



 (……これは……夢?)



 男性は、傘を落とし、ただじっと私をみつめていた。
 彼の唇が、小さく動いて…
濡れるのにも構わず、彼は雨の中を駆けて来る。



 「沙織…!」

 彼の両腕が私を抱き締めた。



 「嘘……」

こんなこと、あるはずがない…
だって、彼はフランスに行って…
私達は別れて…



そうだ、きっと、これは夢…



「……今日もやっぱり雨だったな。」

 「亨は雨男だもん。」

 「会いたかった…なんて言ったら怒る?」

 私は首を振った。



 「私も、ずっと会いたかったから…」



これが夢でも幻でも構わない…



私たちは、そのまま雨に打たれていた。
 辛くて長かった年月を、洗い流してしまうかのように…

 
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