1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
194 / 401
特別な日

しおりを挟む
(よしっ!頑張るぞ!)



 私は、日記帳を見て、気合いを込めた。



 (大丈夫、大丈夫、きっとうまくいく…!)



 自分に言い聞かせながら、彼との待ち合わせの場所に向かった。
 本当は、もっとロマンチックな場所が良かったのだけど、彼が今日はどうしてもバイキングで美味しいものをお腹いっぱい食べたいって言うから、仕方ない。
その代わり、ちょっと張り込んで有名なパトリツィアホテルのバイキングにした。



 背の高い彼は人混みの中でもすぐに目に付く。



 「翔くーん!」

 翔君は、すぐに私に気付いて手を振り返してくれた。



まずは、映画を見る。
 彼の趣味に合わせて、今日はアクション映画だ。
 彼は、スクリーンに釘付けだけど、私は気もそぞろで全く頭に入らない。



 「あぁ、面白かった!」

 「そ、そうだね。」

 私は愛想笑いを浮かべる。



 次は、バイキング。
 今日はホテルのバイキングだから、ロケーションはけっこう良かった。
 32階から眺める夜景は、まさに光の宝石箱だし、レストランの中も高級な家具で、食器も高そうなものだった。



 「おぉっ!さすがに高いだけのことはあるな。
このステーキ、溶ける!」

 「そ、そう?良かったね。」

 肉の味もなんだかよくわからない。
だって、私は今日…



「ねぇ、翔君、ワインもっと飲む?」

 「え?俺、ワインより…」

 「もらってくるね!」

 私はその場から立ち上がった。
 彼には、少々、酔ってもらった方が良いから。
 私もお酒の力を借りよう!



 美味しい料理をいっぱい食べて、お酒もそこそこ飲んで…
彼が、満足した顔を見せた時、私は勇気を振り絞って話した。



 「翔君、気付いてた?
 私達、付き合い始めて今日で丸2年なんだよ。」

 「そうか。確か、梅雨の頃だったっていうのは覚えてたよ。」

 「二年も付き合えば、私のこともわかってくれたよね?
ね?……結婚しない?」

 「えっ!?」

 彼は目を丸くして、私をみつめた。
どんな返事が来るのか内心とても怖かったけど、私はそんなことなどおくびにも出さず、優雅に笑ってみせた。



 「……そうだよな。
そろそろ結婚しても良い時期だよな。」

 「えっ?そ、それじゃあ…」

 翔君は、ゆっくりと頷いた。
それを見て、私は全身の緊張が解けた想いだった。



 「でも、こういうことはもっとロマンチックなところが良いんじゃないの?
なんで、バイキングで言うかな?」

 「十分ロマンチックじゃない。ほら、見て、この夜景。
しかも、ここは天下のパトリツィアホテルだよ。」

 「確かにそうだけど…」

 翔君は苦笑いを浮かべる。



 *



 (やった!今回もうまくいったよ!)



 私は日記帳を抱き締めた。
 数年前から始めた、私のこの日記帳は、少しばかり使い方が変わってる。
 起きたことを書くんじゃなくて、これから起きてほしいこと…つまりは目標みたいなものを現実的に書く日記帳なんだ。



 『6月3日。

 今日は、翔君とデート。
 付き合い始めて丸二年の記念日だけど、翔君はきっと覚えてないだろう。
まずは翔君の好きなアクション映画を見て、それからパトリツィアホテルのバイキングに行った。
さすがに一流のホテルで、とても雰囲気も良かったし、最高に美味しかった。
 張り込んだだけのことはある。

お腹いっぱい食べた後、私は翔君にプロポーズをして、翔君はそれを快く受けてくれた。』



 翔君と付き合うことも、この日記に書いたし、今まで書いたことはほぼ全部現実となっている。
いや、私が現実とさせている。



 (次は、結婚式の日記ね!)



それを書くのが、今から楽しみでならない。 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

3度目に、君を好きになったとき

夏伐 碧
恋愛
伯王高校に入学した理由は、中学のときから憧れている柏木蓮先輩がいるから。けれど入学後、先輩にはすでに彼女がいたらしく、傷ついた結衣は先輩への想いを消したいと願うようになる。 そんなとき「俺ならその記憶を消すことができる」と同級生の真鳥に話を持ちかけられ、先輩への恋心を消してもらうことに。 何も知らず再び先輩と関わっていくうちに、結衣は過去の記憶を少しずつ思い出してしまう。 実は真鳥が消した記憶は、ひとつだけではなく――。

【三章完了】大精霊士の移住計画~愛弟子が婚約破棄されたので出奔します!

藍田ひびき
ファンタジー
「アニエス・コルトー!貴様との婚約は破棄させてもらう!」 「その婚約破棄、ちょっと待ったぁー!」  大精霊士シャンタルの弟子で精霊士見習いのアニエスは、第二王子のマティアスと婚約していた。だが夜会の場で突然、マティアス王子から婚約破棄を告げられる。  それに納得いかない大精霊士シャンタルは口喧嘩の末、マティアス王子を魔法で吹っ飛ばしてしまう。  もうこの国にいる必要もない。  アニエスの婚約が、シャンタルをこの国に縛り付ける理由だったのだ。  弟子を連れて出奔しようと考えるシャンタルのもとに、隣国の王子フェリクスが訪れる。大精霊士の力を借りたいという彼に、シャンタルはある提案をするのだった。    チート級精霊士の主人公とその弟子が活躍する、異世界ファンタジー。  ※ ◇のついたエピソードは主人公以外の視点となります。  ※ なろうにも投稿しています。アルファポリス先行投稿。  ※ 更新は不定期になります。  ※ 設定の見直しに伴い、一部エピソードを修正しました。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...