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落とし物
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「わぁ、けっこう賑わってますね。」
「仕方ないよ、こんなに綺麗なんだもん。
そりゃあ、皆、見にくるよね。」
翼君はそう言って目を細めた。
今日は、翼君と後藤さんと三人でちょっと遠出して、通称、紫陽花寺と呼ばれるお寺に紫陽花を見に来た。
晴れとはいかなかったけれど、曇りでなんとかお天気ももってくれた。
「わぁ、すごい!
こんなに咲いてると圧巻だね。」
「本当に綺麗ですよね。」
後藤さんは、早速スマホを取り出して、紫陽花の画像を撮っていた。
「近くで見ると、なんかすごいですね。
ちっちゃな花が密集して、不思議な気がしますね。」
後藤さんは、紫陽花の傍で何枚も画像を撮る。
「あれ?」
後藤さんが、なにかをみつけた。
後藤さんの手に持たれたそれは、小さな懐中時計だった。
文字盤に犬の絵が描いてある。
「きっと、子供のですね。
後で、お寺に届けておきましょう。」
後藤さんは時計をポケットに仕舞った。
私達は、紫陽花を見て回った。
同じ紫陽花とはいえ、いろいろな色や形のものがあって、思ってたよりも楽しかった。
「あ、雨……」
なんとか降らずに済むかと思ってたけど、残念ながら雨が降り出して来た。
ちょっとブルー…
「雨…降って来たね。」
「うん、でも、雨に濡れる紫陽花も風情があって綺麗なんじゃない?
傘も持って来てるしさ。」
翼君は、私とは違って雨の事なんて少しも気に病まず、持って来た傘を笑顔で広げた。
「先輩、知ってますか?
紫陽花には黄色のものがないらしいですよ。」
「えっ?そうなの?
紫陽花って普通は紫とか青とかピンクとか…あ、白もあるよね。
言われてみれば、僕、黄色の紫陽花は見たことない……あれっ!?」
「あっ!」
ふたりが何かを見つけたらしいけど、私は背が低くて見えなかった。
「何かあったの?」
「あっちに黄色い紫陽花が…」
「えっ!?」
今、後藤さんが黄色い紫陽花はないって話をしてたところなのに、なぜ?
駆け出した二人を、私も追いかけた。
「あ~…」
しばらくして、ふたりが急に走るのをやめて、顔を綻ばせた。
(なんだ……)
私にも二人が走るのをやめた原因がわかった。
鮮やかな黄色のそれは、子供の傘だったんだ。
人混みと木の隙間から見えた黄色は、紫陽花ではなく小さな女の子の傘だった。
「あ、あの犬!」
「犬って?」
「ほら、あの子の傘…」
女の子の傘の一部には、小さな犬の絵が描いてあった。
「あの犬がどうかした?」
「おーい!」
私に返事もせず、翼君はその子の所に駆けて行った。
私と後藤さんもその後を追いかける。
「ねぇ、君…時計、落とさなかった?」
「えっ!なぜ、それを?」
傍にいたお母さんらしき人が、驚いたような顔をしていた。
「後藤、さっきの時計…」
「あ…」
後藤さんは、さっき拾った懐中時計をポケットから取り出した。
「あ、まいの時計~!」
女の子は時計を見て、目を輝かせた。
「紫陽花の傍に落ちてたよ。」
「お兄ちゃん、ありがとう~!」
女の子の笑顔に、私の気持ちはそぼ降る雨も気にならない程、すっきりと晴れた。
「仕方ないよ、こんなに綺麗なんだもん。
そりゃあ、皆、見にくるよね。」
翼君はそう言って目を細めた。
今日は、翼君と後藤さんと三人でちょっと遠出して、通称、紫陽花寺と呼ばれるお寺に紫陽花を見に来た。
晴れとはいかなかったけれど、曇りでなんとかお天気ももってくれた。
「わぁ、すごい!
こんなに咲いてると圧巻だね。」
「本当に綺麗ですよね。」
後藤さんは、早速スマホを取り出して、紫陽花の画像を撮っていた。
「近くで見ると、なんかすごいですね。
ちっちゃな花が密集して、不思議な気がしますね。」
後藤さんは、紫陽花の傍で何枚も画像を撮る。
「あれ?」
後藤さんが、なにかをみつけた。
後藤さんの手に持たれたそれは、小さな懐中時計だった。
文字盤に犬の絵が描いてある。
「きっと、子供のですね。
後で、お寺に届けておきましょう。」
後藤さんは時計をポケットに仕舞った。
私達は、紫陽花を見て回った。
同じ紫陽花とはいえ、いろいろな色や形のものがあって、思ってたよりも楽しかった。
「あ、雨……」
なんとか降らずに済むかと思ってたけど、残念ながら雨が降り出して来た。
ちょっとブルー…
「雨…降って来たね。」
「うん、でも、雨に濡れる紫陽花も風情があって綺麗なんじゃない?
傘も持って来てるしさ。」
翼君は、私とは違って雨の事なんて少しも気に病まず、持って来た傘を笑顔で広げた。
「先輩、知ってますか?
紫陽花には黄色のものがないらしいですよ。」
「えっ?そうなの?
紫陽花って普通は紫とか青とかピンクとか…あ、白もあるよね。
言われてみれば、僕、黄色の紫陽花は見たことない……あれっ!?」
「あっ!」
ふたりが何かを見つけたらしいけど、私は背が低くて見えなかった。
「何かあったの?」
「あっちに黄色い紫陽花が…」
「えっ!?」
今、後藤さんが黄色い紫陽花はないって話をしてたところなのに、なぜ?
駆け出した二人を、私も追いかけた。
「あ~…」
しばらくして、ふたりが急に走るのをやめて、顔を綻ばせた。
(なんだ……)
私にも二人が走るのをやめた原因がわかった。
鮮やかな黄色のそれは、子供の傘だったんだ。
人混みと木の隙間から見えた黄色は、紫陽花ではなく小さな女の子の傘だった。
「あ、あの犬!」
「犬って?」
「ほら、あの子の傘…」
女の子の傘の一部には、小さな犬の絵が描いてあった。
「あの犬がどうかした?」
「おーい!」
私に返事もせず、翼君はその子の所に駆けて行った。
私と後藤さんもその後を追いかける。
「ねぇ、君…時計、落とさなかった?」
「えっ!なぜ、それを?」
傍にいたお母さんらしき人が、驚いたような顔をしていた。
「後藤、さっきの時計…」
「あ…」
後藤さんは、さっき拾った懐中時計をポケットから取り出した。
「あ、まいの時計~!」
女の子は時計を見て、目を輝かせた。
「紫陽花の傍に落ちてたよ。」
「お兄ちゃん、ありがとう~!」
女の子の笑顔に、私の気持ちはそぼ降る雨も気にならない程、すっきりと晴れた。
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