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紫陽花

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「お前、何人だ?」

 「え?日本人だけど…」

 「だったら、そんなつまらないこと言うな!」

 「つまらないとは何よ!」



また喧嘩になってしまった。
なんで、私、こんなに口の悪い男と付き合ってるんだろう?



 「つまらないからつまらないって言ってるんだ。
 良いか?
ジューンブライドが幸せになれるっていうのは、ローマ神話の女神が由来になってるんだ。
お前、ローマ神話なんて読んだことないだろ?
それにな、ヨーロッパでは、3月から5月は農作業が忙しくて結婚するのを禁止にされてたんだ。
だから、6月になったら結婚出来る…つまり、幸せになれるってわけだな。
それに、6月はヨーロッパでは雨が一番少ない、良い季節なんだ。
でも、日本は梅雨の真っただ中で雨ばかりだ。
わかるか?ジューンブライドはヨーロッパの者には良いものでも、日本人には何の意味もないってわけだ!」

 「なにもそこまで言うことないじゃない…」

 私は、唇を噛み締めた。



 私達は付き合い始めて三年目…そろそろ結婚しても良いかなって私は思ってるけど、彼にはそんな素振りはなくて…
それで、彼をその気にさせるため、ちょっとジューンブライドの話をしたら、こんな風に言い負かされる始末…



(はぁ……)



もう無駄な努力をするのはやめよう…
そう思い、私は黙って彼の少し後ろを歩いてた。



その時、ふと、紫陽花が目に入った。
この花にもちょっといやな記憶がある。



 彼と付き合い始めてまだ間もない頃、あじさいを漢字で書けるか?って訊ねられて…
私は、ちゃんと答えられず、そんなのも知らないのかって、彼に叱られた。
 昨年の今頃、また同じことを訊かれて…
その時はさすがにちゃんと答えられた。



 「なぁ…知ってるか?」

 「えっ!?」



なに?またあじさいを漢字でどう書くかのテスト?



 「紫陽花の花言葉…」

 「花言葉?あ、あぁ、確か、あんまりよくないんだよね?
えっと……『移り気』だっけ?」

 「それもあるけど、『家族団欒』ってのもあるんだ。
ほら、見てみ。ちっちゃい花が集まってるだろ?」

 「うん、そうだね。」



いろいろと口うるさいところはあるけれど…
植物や動物に接する時の彼はとても優しい。
きっと、私は彼のそんなところが好きなんだ。



 「ところで、『あじさい』は漢字でどう書くか、忘れてないだろうな!?」



これがなきゃ良いんだけど…
私は深い溜め息を吐いた。
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