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王女にキスを

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(う、う、嘘だろ…!?)



 僕の周りには、緑色の者たちが群がっていた。
 人間の形はしてるんだけど、顔も手足も鮮やかな緑色で皮膚はまるでゴムみたいなんだ。
 芸能人にも、緑色のゴム人間を見たって人は何人もいるし、ネットでも見たって人の書き込みは少なくない。
でも、たいていは、普通の人間のなかに緑色のゴム人間が一人だけ混じっていて、他の人はゴム人間に気付いてないことが多いって話だったけど…
でも、今はそんな奴らが、僕を取り囲んでいる。
 緑色ばかりなんだ!
そこには小学校の机と椅子みたいなものがあって、僕はその椅子に座っている。



 「さぁ、ここに名前を書いて。」

ゴム人間のひとり(女性っぽい服を着てるから女性かも知れない)が、僕に鉛筆と書類を差し出した。
 書いてある文字は初めて見るもので、全く読めない。



 「え、えっと…これって…」

 「いいから、早く名前を書いて!」

ゴム人間はイライラした様子でそう言った。
 多分、これは署名なんかしちゃいけないやつだ。
 本能が僕に危険を知らせる。
でも、僕が書かなかったら、ゴム人間はさらに不機嫌になり、さらに大きな声を出した。



 「早く書きなさい!」

ゴム人間がそう言うと、周りのゴム人間たちが声をそろえて同じことを言い始めた。



 「早く書け!」
 「早く書け!」
 「早く書け!」

 無表情で、ただ僕だけを睨みつけ、皆が声を揃える。
 僕はその不気味なプレッシャーに打ち勝つことが出来ず、言われるままに署名した。



すると、今度はどこからか担架が運ばれて来た。
そこには、女性と思しき緑色のゴム人間が横たわっていた。



 「さぁ、キスをしなさい。」

 「えっ!?」

 「キスをしないと、王女が目を覚まさない!」

 「王女!?」



なぜ僕が王女にキスを…?
 僕が戸惑っていると、またさっきと同じように皆が声を合わせ、今度は足まで踏み鳴らして叫び出した。



 「王女にキスを!」
 「王女にキスを!」
 「王女にキスを!」



ものすごく怖いんだけど…
でも、キスをすることも怖い…
まるで、死んでるみたいに見える緑色のゴム人間なんだから。



 僕はその場から逃げようとした。
だけど、すぐに背中を誰かに掴まれて…



「わぁっ!」



 「……どうかしたの?」

 「えっ!?」



 僕はリビングのソファから、床に落ちていた。



 「あら、すごい汗かいてる…」

 「え?」

 「怖い夢でも見たの?」

 「い、いや、別に…」



 夢で良かった。
はっきりと覚えてるけど、話す気にはならなかった。



 「ごはん、出来たから。」

 「う、うん…」



テーブルの上には、ブロッコリーとアスパラときゅうりのサラダが置いてあった。
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