１ページ劇場③

カーネーション

１

（おかあさん…母の日だよ。）



 私は、仏壇にカーネーションを供えた。
 赤いカーネーションを…
私の母は去年亡くなったけれど、なぜだかそれを知られたくなくて赤を買った。
 私が赤を買おうが、白を買おうが、花屋さんはきっとそんなこと気にも留めないだろうに。



ずっと昔、小学生の頃…先生が言った。
 母の日には、赤いカーネーションをお母さんに贈りましょう。
お母さんのいない人は、白いカーネーションを供えましょうと。



クラスでは、安井さんという子がただ一人だけ、お母さんがいなくて、その子はそんな話の時にいつもとても寂しそうな顔をしていた。
その顔が、今でも忘れられない。
 白を飾る理由があろうとなかろうと、そこでそんな差を付けなくても良かったのではないかと思う。
そんな想いもあって、私は赤を買ったのかもしれない。



 今でも安井さんは白いカーネーションを供えているのだろうか？
ふと、そんなことを考えた。



 母のいない我が家では、母の日はカーネーションを飾るだけ。
お祝いのご馳走も、プレゼントもない。



 （何か作って供えようか？
あ、お母さんの好きだった肉じゃがとか…）



 仏壇に向かって心の中でそう言った時、玄関先で自転車のベルがちりんと鳴った。



あまりのタイミングの良さに、思わず、私の目から涙が零れた。



 「うん、わかった。
 今から作るから待ってて。」



 私は涙を拭いながら、そう言った。