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不吉な月
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(またあの月がやって来るのか…
ならば、どうか私を……)
このところ、町は大きな月が現れるという噂でもちきりだった。
祈祷師が言うには、その月はたいそう不吉なものだそうで、その月が出る夜は決して外には出てはならないと叫んでいた。
それを聞いて恐れおののく者もいれば、鼻で笑う者もいた。
だが、私は知っている…祈祷師の言うことが嘘ではないということを…
なぜならば、私は不吉な災いを受けた身なのだから。
あれから長い年月が過ぎた。
私は、あの頃のことを思い出す…
あの頃の私は、今とは違う姿だった。
そう…森の中に住む狼だったのだ。
私は、いつものように親や仲間と森の中を駆けていた。
ただ、空に浮かぶ月がいつもよりずっと大きく、そのことが意外な程、私を不安にさせていた。
その不安は的中した。
私は、急に今まで味わったことのない苦しさに襲われた。
そして、体中の毛が抜け、体は形を変えた。
狼から人間の子供に…
次の日、狩りに来た人間に母親が撃ち殺され、私はその人間によって、どこか知らないところへ連れて行かれた。
それから、私はその屋敷で人間としての教育を受けた。
今まで言葉さえ話したことのなかった私に、人間はとても根気よく言葉を教え、礼儀を教えた。
ハイランド伯爵夫妻には子供がなかったこともあり、私を養子に迎え、我が子のように愛してくれた。
やがて私は少年となり、青年となった。
その頃には、まるで狼だったことが夢か幻だったかのように朧げな記憶となっていた。
私は、両親のすすめで貴族の娘・レイラと結婚した。
レイラは気立ての良い娘で、私との関係もうまくいっていた。
その次の年、両親が相次いでで亡くなり、私はハイランド家の当主となった。
さらにその次の年、レイラが懐妊した。
私達は、子供が生まれるのを楽しみに待っていた。
その子の誕生で、私達の仲もさらに良くなるだろうと思っていた。
ところが、そうはならなかった。
妻が生んだのは、人ではなく黒い毛に覆われた狼の子供だったのだ。
それを見て、レイラは気が狂ったように絶叫し、バルコニーからその身を投げた。
産婆には金を渡し、口止めをした。
私は、生まれた狼の子を連れて町を離れ、森の中の別荘に移り住んだ。
狼は、当然、言葉を理解しない。
私に懐くこともなかった。
だが、私には息子であるこの狼を育てる義務があると思い、ジェイコブと名付けて大切に育てた。
相変わらず懐くことはなかったが、それでも私にとってジェイコブは愛しい存在だった。
その子が生まれて六年程経ったある日のこと、ジェイコブが檻から逃げ出していた。
数日後、ジェイコブはハンターの手によって仕留められた。
世界中がひび割れてしまったかのような衝撃が胸を貫いた。
私は、なぜ…なんのために人間になってしまったのか…
丸い月が空に浮かぶ度に、月を見上げ、月を恨んだ。
これから数日後…
またあの大きな月が現れるという…
(どうか私を、戻してくれ…
狼だったあの頃に…)
なぜ今更そんな風に思うのか、わからない…
私にはもう、狼だった頃の記憶はないに等しいというのに…
それでも、私は願う…
あの頃に戻りたい…と。
ならば、どうか私を……)
このところ、町は大きな月が現れるという噂でもちきりだった。
祈祷師が言うには、その月はたいそう不吉なものだそうで、その月が出る夜は決して外には出てはならないと叫んでいた。
それを聞いて恐れおののく者もいれば、鼻で笑う者もいた。
だが、私は知っている…祈祷師の言うことが嘘ではないということを…
なぜならば、私は不吉な災いを受けた身なのだから。
あれから長い年月が過ぎた。
私は、あの頃のことを思い出す…
あの頃の私は、今とは違う姿だった。
そう…森の中に住む狼だったのだ。
私は、いつものように親や仲間と森の中を駆けていた。
ただ、空に浮かぶ月がいつもよりずっと大きく、そのことが意外な程、私を不安にさせていた。
その不安は的中した。
私は、急に今まで味わったことのない苦しさに襲われた。
そして、体中の毛が抜け、体は形を変えた。
狼から人間の子供に…
次の日、狩りに来た人間に母親が撃ち殺され、私はその人間によって、どこか知らないところへ連れて行かれた。
それから、私はその屋敷で人間としての教育を受けた。
今まで言葉さえ話したことのなかった私に、人間はとても根気よく言葉を教え、礼儀を教えた。
ハイランド伯爵夫妻には子供がなかったこともあり、私を養子に迎え、我が子のように愛してくれた。
やがて私は少年となり、青年となった。
その頃には、まるで狼だったことが夢か幻だったかのように朧げな記憶となっていた。
私は、両親のすすめで貴族の娘・レイラと結婚した。
レイラは気立ての良い娘で、私との関係もうまくいっていた。
その次の年、両親が相次いでで亡くなり、私はハイランド家の当主となった。
さらにその次の年、レイラが懐妊した。
私達は、子供が生まれるのを楽しみに待っていた。
その子の誕生で、私達の仲もさらに良くなるだろうと思っていた。
ところが、そうはならなかった。
妻が生んだのは、人ではなく黒い毛に覆われた狼の子供だったのだ。
それを見て、レイラは気が狂ったように絶叫し、バルコニーからその身を投げた。
産婆には金を渡し、口止めをした。
私は、生まれた狼の子を連れて町を離れ、森の中の別荘に移り住んだ。
狼は、当然、言葉を理解しない。
私に懐くこともなかった。
だが、私には息子であるこの狼を育てる義務があると思い、ジェイコブと名付けて大切に育てた。
相変わらず懐くことはなかったが、それでも私にとってジェイコブは愛しい存在だった。
その子が生まれて六年程経ったある日のこと、ジェイコブが檻から逃げ出していた。
数日後、ジェイコブはハンターの手によって仕留められた。
世界中がひび割れてしまったかのような衝撃が胸を貫いた。
私は、なぜ…なんのために人間になってしまったのか…
丸い月が空に浮かぶ度に、月を見上げ、月を恨んだ。
これから数日後…
またあの大きな月が現れるという…
(どうか私を、戻してくれ…
狼だったあの頃に…)
なぜ今更そんな風に思うのか、わからない…
私にはもう、狼だった頃の記憶はないに等しいというのに…
それでも、私は願う…
あの頃に戻りたい…と。
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