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おみくじ

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(次だな。)



 僕は、バスの降車ボタンを押した。



 毎年、初詣には行くけれど、今年はいつもとは違う神社だ。
それにはちょっとした下心があった。



 鳥居文香…
同じ読書クラブの部員。
 彼女の家が、この神社の近くだということを知ったから。
もしかしたら、偶然出会えるんじゃないか…なんてことを考えて、僕はここに来たんだ。



 本当は言いたかった。
 「初詣、一緒に行かない…?」って。
でも、僕にはそんな簡単なことが言えなかった。
 断られたらどうしよう?
そう思うと怖くなって、僕は誘うことが出来なかった。



いや、本当に言いたいのはそんなことじゃない。
 「君のことが好きです。付き合ってください。」
そう言いたいのに、僕には勇気が足りなかった。



だから、年末に決めたんだ。
もしも、おみくじで『大吉』が出たら、彼女に告白しようって。
 彼女とは本当に趣味が合う。
 好きな作品はほぼ全部ぴったりで、彼女が紹介してくれた本はすべてがとても楽しめるものだった。
こんなにも、趣味の合う人がいたなんて信じられないくらいだ。
きっと、それは性格的なものも合うってことだと思う。
でも、そう思うのに、僕にはなかなか告白が出来ない。



 大吉なんて、ここ何年も出ていない。
きっと、今年も出ないだろう…
だから、僕はそんなことを考えたのかもしれない。
そんな風に思うと、僕は自分の意気地のなさにちょっと幻滅した。



バスを降り、長く伸びた参拝の列の最後に並ぶ…



馬鹿だな…こんな所まで来て…
そうだ…僕はそれほど、彼女のことが好きなんだ…



(どうか、勇気が持てますように…)



 参拝を済ませ、おみくじを引きに行く。



 (えっ!?)



 引いたのは『大吉』だった。
 驚き過ぎて、手が震える…



(ま、まさか!?)



ふと顔をあげると、少し離れた所に空を見上げながら立ち尽くす鳥居文香がいた。
 僕は、彼女に会いたくて、幻を見ているのか!?
 眼鏡をはずして目をこすり、そしてもう一度そちらを見た。



 幻なんかじゃない。
 本物の鳥居文香だ。



 僕は大きく深呼吸をすると、雑踏をかきわけ彼女に近付く。



 「と、鳥居君。」

 「え…ええっ!?か、片岡先輩!?」

 彼女は目を丸くして驚いている。



 「あ、あけましておめでとう。」

 「お、おめでとうございます。」

 心臓がドキドキして、口から飛び出しそうだ。
でも、言わなきゃ…
おみくじは『大吉』だったんだから。



 「さ、寒いね。よ、良かったら、どこかでお茶でも…」

 「は、はい!」

まさかこんなに早くチャンスが巡って来るとは思ってなかったけど…
ここまで来たら、後は言うしかない!



 今日こそ、僕は告白する…!
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