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サンタクロースの憂鬱

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「えっ?どういうことじゃ?
 具合でも悪いのか?」

 「はい、まぁ、そんなところです。
 申し訳ないのですが、どうぞよろしくお願いします。」

 「お、おい、それは困る…!
 今頃そんなことを言われても…」

 「なんと言われようと、私は今年は行けませんので…では…」



サンタ長に背を向け、私は部屋を後にした。
もやもやする胸を抱えながら、家に戻る。



サンタ長が慌てるのも仕方がない。
クリスマスイヴまでにはもう幾日もない。
そんな最中、私は今年はプレゼントを配達しないと言ったのだから。



だけど、私だって、悩んだんだ。
でも、どうしてもいやで…なんとかそう言う気持ちを乗り越えようとは思ったけれど、どうしてもだめだったんだ。



こんなことになってしまったのは、数日前のことが原因だ。
 子供たちへのプレゼントを準備してる時…私は、不意に気付いてしまったんだ。



 私は、この年になるまで、クリスマスにプレゼントをもらったこともなければ、温かな暖炉の前で美味しいごちそうを食べたこともない…
いつも凍えそうに寒い夜空を飛び、狭い煙突を通って、子供たちにプレゼントを配っている。



それは、サンタクロースになることを運命付けられていた私の性なのかもしれない。
そう…サンタクロースになる者は生まれた瞬間から決められる。
そして、サンタクロースになるための勉強をして、やがて、見習いとなる。
トナカイの世話や、そりの整備、プレゼントの準備、包装…見習いの仕事は山積みだ。
そして、長い見習い期間を経て、ようやく一人前のサンタクロースとなる。



そのことに、何の疑問も感じなければ良かったのだ。
だけど、私は感じてしまった。
なぜ、私はこんな生活をしているのか…
なぜ、私はみんなのようにクリスマスを祝えないのか…
そんなことを考え始めたら、とてもじゃないが、配達をする気になれなかったのだ。



 「こんばんは!」

 窓を叩く音がした。
そこには、トナカイのルドルフがいた。



 「どうしたんだ?家に来るなんて珍しいじゃないか。」

ルドルフは、ドアを鼻先で押し開き、部屋の中に入って来た。



 「今年は、配達休むって聞いたから。
 体調でも悪いのかい?」

 「いや…」

 「おいらも、休もうかな。」

 「えっ!?そんなことをしたら。みんな困るだろ。」

 「良く言うよ。それならあんただって同じだろ。」



あぁ、わかってる…そんなことは言われなくとも、十分良く分かっている。



 「なぁ、あんた、イヴの日は休んで何をするんだ?」

 「え…?」



まだ何も考えていなかった。
でも、家にいるのだから、ご馳走でも作って…いや、私には料理なんて作れない。
そうだ…私には家族もいないから、イヴはひとりぼっちだ。



 (ひとりぼっちで、クリスマスを過ごすのか…)



そう思ったら、とても寂しい気がした。



 「それに、次のクリスマスまではどうやって過ごすんだ?」

 「えっ!?」



 次のクリスマスまで、サンタクロースは配達をした子供たちから来た手紙を読む。
その数は途方もない数なので、手紙を全部読み終えるまで、一年かかってしまうのだ。



 (……配達に行かなければ、私は一年間、何もすることはないんだな…)



 子供たちからの手紙には、サンタクロースへの感謝と愛がこもっている。
だから、私は毎日とても良い気分で過ごすことが出来、仕事への意欲もわいて来るのだ



(そうか…私は、イヴにはプレゼントをもらえないけど、ご馳走だって食べられないけど、気付かないうちにそれ以上のものをもらっていたんだ…)



 「ありがとう、ルドルフ。」

 「ありがとうって…何がだい?」

 「おまえのおかげで目が覚めたってことさ。」

キョトンとするルドルフを置いて、私はサンタ長の所へ走った。
さっき言ったことを撤回するために…

 
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