上 下
108 / 401
蠍座の女

しおりを挟む
「え……」



 見慣れない格好のお母さんに、私は言葉を失った。



 「やっぱり、変かな?」

 「変じゃないけど…
何なの?パーティかなにかあるの?
そんな服、持ってたっけ?
それにそのコート…」

 母は、真っ赤なスーツの上にふさふさとした毛皮のコートを羽織り、派手な化粧をして立っていた。



 「今日からちょっと働こうと思ってね。
 昔の知り合いに借りたのよ。どう、似合ってる?」

お母さんは、照れくさそうに笑った。



 「え…ま、まぁ確かに似合ってるけど…
働くって、まさか…お水?」

 「うん、私…資格とか何も持ってないから。」

 「で、でも…大丈夫なの?お水なんて、お母さんに出来るの?」

お母さんは小さく頷いた。



 「これでも、若い頃、しばらく働いたことがあるのよ。」



 (あ……)



そういえば、ちらっと聞いたことがある。
お母さんがまだ若い頃、おじいちゃんが誰かに騙されたことがあるって話。
その時、お母さんやおばあちゃんにものすごく迷惑をかけたって、おじいちゃんは今でもお酒を飲むと涙をこぼす。
きっと、その時じゃないかって思った。



 「でも…最近はずっと専業主婦だったじゃない。
 本当に大丈夫なの?」

 「うん、大丈夫よ。
こんなおばさんでも、雇ってくれるお店があるし、蠍座って、打たれ強いから。
じゃあ、そろそろ出かけるわね。」

 「う、うん…」



お母さんの後ろ姿をみつめながら、私は複雑な想いを感じてた。



 三か月前…お父さんが倒れた。
お父さんは、いつの間にか病魔に冒されていた。
 一家の大黒柱が倒れ、しかも、入院費がかさむ。
 家のローンの支払いだってあるし、貯金なんてすぐに底をつくと思う。
だから、お母さんは働くことを決心したんだ。



いつものお母さんは、髪をまとめ、エプロンをかけて、薄い色の口紅をほんのちょっとさすだけで…地味で存在感のないイメージしかなかった。
だけど、さっきのお母さんはまるで別人みたいだった。
 道端に咲く雑草だと思ってたら、実は大輪の薔薇だったんだ。
そのことが、私にはとても衝撃的だった。



お父さんは知ってるんだろうか?
お母さんのもう一つの顔を…



妖艶なお母さんの顔が、頭から離れない。
お母さんがどこか遠くに行ってしまいそうで…
心細さに、私は震えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

王妃 ジョア~日本人水島朔が王妃と呼ばれるまでの物語 ~

ぺんぎん
恋愛
 彼を、絞め殺そうと思う。というか、今だったら絞め殺せる。  わたしは、広場の中央にいる国王をにらみつけた。  彼が国王だって?そんなの誰にも聞いていない。    早くに両親を亡くした水島朔は、病気がちな弟、満と、叔母の家で暮らしていた。  ある日、育ててくれた叔母が亡くなり、姉弟が離れ離れに暮らすことになってしまう。  必要なのは保護者と仕事と住むところ。  努力と美貌と背の高さ。使えるものは全部使って、必死で働いていたら、ヨーロッパの小国の王妃になることになりました。  日本人 水島朔が王妃と呼ばれるまでの物語です。

三百字 -三百字の短編小説集-

福守りん
ライト文芸
三百字以内であること。 小説であること。 上記のルールで書かれた小説です。 二十五才~二十八才の頃に書いたものです。 今だったら書けない(書かない)ような言葉がいっぱい詰まっています。 それぞれ独立した短編が、全部で二十話です。 一話ずつ更新していきます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...