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納涼流しそうめん

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「あぁ、暑い暑い…
ママ、もう少しエアコンの温度下げてよ。」

 「馬鹿言わないで。
 夏は暑いのが当たり前。
それに、地球は温暖化してるのよ。
 節電しなきゃだめでしょ!
はい、これ!」

 野太い声で節子ママはそう言って、常連の加藤の前にうちわを差し出した。



 「えーーー…」

 「手動エアコンよ。
それとも、私が熱いチュウをしてあげましょうか?
 涼しくなるわよぉ~」

 「い、いや、これで十分だ。」

 加藤は受け取ったうちわでぱたぱたと仰いだ。



ここは、スナック『お化け屋敷』
 昨年までは『妖怪ハウス』だったのだが、ママの気まぐれで店名が変更された。
まさにおばけのような容姿のママと従業員がいる場末のスナックだ。
そんなおかしなスナックにも不思議なことに常連客はいる。



 「あぁ、暑い、暑い。」



 常連客の岡林が汗を拭き拭き、入って来た。
 岡林は、小さな工務店の社長だ。



 「あら、岡ちゃん、遅かったじゃない。」

 「今日はちょっと仕事でトラブルがあってな。
それにしても暑いな。
もうちょっと涼しく出来ないか?」

 「はい。」

 節子ママは、エアコンのリモコンには触れることなく、またうちわを手渡した。
 岡林は、苦笑いを浮かべながらそれを受け取り、ぱたぱたと忙しなく動かした。



 「あ、そうだ、ママ…そうめん、食べないか?
 田舎から大量に送って来た奴、もって来たんだった。」

 加藤が、ごそごそとバッグの中から木箱入りのそうめんを取り出した。



 「あら!良いじゃない!
 今、ゆでてみんなで食べない?」

フランケンシュタインにどこか似たみさこがそう言ってはしゃぐ。



 「そりゃあ良いな。」

 「あ、そうだ!そうめん食べるなら…」

 岡林は急に立ち上がり、そのまま外へ出て行った。



 *



 「岡ちゃん、どこ行ったのかしら?」

そうめんが茹で上がったちょうどその時、岡林が戻って来た。



 「そうめんなら外で食べようぜ。」

 「外で?なんでよ~?」

 「良いから、良いから。」

 岡林は節子ママの手を取って外へ出た。



 「まぁ!」

 向かいの公園には、流しそうめんの準備がなされていた。



 「すごいじゃない、どうしたのよ、これ。」

 「今日はちょうど雨樋積んでたから、思いついたんだ。
そうめんっていったら、やっぱり流しそうめんだろ?」

 「雨樋!?」

 「まだ使ってないやつだから大丈夫、大丈夫。」

かくして、深夜の公園で、お化け屋敷のみんなと常連たちの楽しい流しそうめんが始まった。
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