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新月の盆踊り

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(おっかしいなぁ…)



さっきから、確かに寂しい道は続いてるけど、それだけだ。
しかも、目当ての墓場がなかなか見つからない。



 学校を休めるのは嬉しいけど、夏休みは長すぎて退屈だ。
その退屈さを吹き飛ばすため、僕は友人たちと肝試しを計画した。
 肝試しは盆踊りの二日に渡ってやることになった。
 脅かす側と脅かされる側に分かれて、僕は昨日お化け役をやった。
いつもは冷静な後藤が、僕を見てぎゃあぎゃあわめいて、そりゃあ面白かったんだけど、脅かされる側になると、確かに心細いもんだ。
しかも、今日はなんだか道まで違って思える。
 墓場はそれほど遠かったとは思わなかったのだけど、それだけ僕がビビってるってことなのか?



しばらく進むと、不思議なことに盆踊りの音楽が聞こえて来た。
おかしい…僕は盆踊りの会場からずいぶん離れた場所にいるはずなのに…



(仕方ない。もう一度、出直すか…)



なぜ、迷ってしまったのかわからなかったけれど、確かに僕はやや方向音痴な傾向がある。
 今日は月も出てない暗い夜道だったから、迷ったのかもしれない。
 荷物はすべて置いてきていて、スマホもないから現在地を調べることも出来ない。
そんなことを考えてる間にも、盆踊りの太鼓の音と笛の音はどんどん近付いて来る。



 (……あれ?)



なにか違和感を感じた。
どうも違う。
どうやらここは僕らの町内の盆踊りとは違うみたいだ。
 櫓の上には誰もいない。
 太鼓や笛の音は実際に奏でられた音ではなかったみたいだ。
 提灯もまばらで薄暗く、踊ってる人も少ないし、やけにお年寄りが多い気がする。
 出店も全く出ていない。



そうか、僕はどこか違う町の盆踊り会場に来てしまったんだ。
 誰かに道を聞こう。
そう思って、誰に声をかけようかと迷って盆踊りの輪に目をやると、僕はそこにおばあちゃんの姿をみつけた。



 「ケンちゃん…!」



おばあちゃんが僕をみつけたのも同時だった。
おばあちゃんは険しい顔をして僕の傍に歩み寄る。



 「お、おばあちゃん…」

 「ケンちゃん!早く帰るんだ!」

 「でも、帰り道が…」

 「走りなさい!振り向かず、大急ぎで走ってここから離れなさい!」

おばあちゃんが僕の背を強く押した。



 僕は言われた通りに走った。
 前だけを見てがむしゃらに…
後ろが気になったけど、怖くて振り向けなかった。



だって……
おばあちゃんは、三年前に死んだんだもの…



走って走って、息が切れる程、走って…
僕はようやく見慣れた風景に辿り着いた。
そこには、友人の三谷がいた。



 「山下…お前、どこ行ってたんだよ。」

 「う、うん…ちょっと迷って…」



 僕はその体験を誰にも言うことが出来なかった。
あの盆踊りのこと…おばあちゃんのこと…
それは永遠に僕の心の中だけに…

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