1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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(うわぁ……)



 竹林を抜けた先…そこには雑草や木が好き放題に広がっていた。



 中学を卒業すると同時に、俺はこの村を離れた。
 近くにあった縫製工場が潰れ、両親の職がなくなったからだ。
 元々小さな集落だったけど、昔はそれなりに人も住んでて、子供の頃の俺はとても良い所だと思ってた。
 何もないと言えば何もない。
だけど、自然に溢れたこの村は、子供の俺にはけっこう楽しい場所だった。
 今のこの光景を目の当たりにしても、俺には当時の風景が鮮明に思い出せる。
あそこには風車小屋があって…
あっちは岡垣のばあちゃんの大根畑…
そして、あの木の傍には、犬小屋があった。
 茶色の大きな犬が怖くて、俺はそこを通るのが苦手だったっけ。



 明日は20年ぶりの中学の同窓会だ。
だから、俺はこの地へ戻って来た。
そして、つい、懐かしくなって、この村を見に来た。
ここはすでに廃村となり、もう何もないことはわかっていたのに…



さぁ、帰ろう…そう思った時、俺は意外な人物と出会った。



 「え……さとみ……?」

 「こ、浩平…?」



それは、幼馴染のさとみだった。
さとみも俺と同じく、中学卒業と共にこの村を離れた。
 子供の頃からまるで兄弟のように育ったが、中学に入ってからなんとなく疎遠になった。
それは、思春期という魔物のせいだったのかもしれない。
 俺達が同じ村に住んでるということで、同級生から冷やかされた。
ただ、それだけのことなのに、俺達はよそよそしくなり、引っ越して行く時にも、お互い、さよならの挨拶さえ交わさなかった。



 「ひ、久しぶり。
もしかして、明日…行くのか?」

 「う、うん…浩平も行くのね?」

 「まぁな…」



 年甲斐もなく照れてしまい、俺はそっぽを向いた。
さとみはあの頃と違って、とても女らしくなっててドキドキしてしまった。
 20年も経てば変わるのも当然なのに。



 「元気にしてたのか?」

 「うん…まぁね。浩平は?」

 「俺もまぁそれなりに…」


 他愛ない会話が途切れ、沈黙が流れる。



 「なにもかもなくなってるよな。」

 沈黙が辛くて、目の前に広がる雑草を見ながら、俺はそう言った。



 「そ、そうだね。でも、私…当時のこと、まだしっかり覚えてるよ。」

 「俺も…!」

そこから、昔話に花が咲き…
ぎこちなかった会話が、途切れなくなった。
 俺達は、子供の頃のように笑い、懐かしい話をお互いに話し合った。
 時の過ぎるのも忘れるくらい、夢中になって…



「すいぶん暗くなってきたな。
そろそろ帰るか。」

 「そうだね。」



 二人で薄暗い竹林を並んで歩く…
あたりが静かなせいか、先程の盛り上がりが嘘のようにふたりとも押し黙っていた。



 「……浩平…私、あんたに隠してたことがあるんだ。」

 「えっ!?」

 不意にそんなことを言われ、俺は目を丸くした。
さとみは、小さく肩を震わせる。



 「隠してたことって…」

 「ボタン…」

 「ボタン…?」

 「ボタンって聞いて、何か思い出さない?」

 「ボタン…?」



そう言われても、俺には何も思い出すことはなかった。



 「やっぱり、忘れてるか…」

そう言ってさとみは意味ありげに笑った。



 「何なんだよ、教えてくれよ。」

 「私、必死で探して…まだ持ってるんだ。」

さとみはぼんやりと竹林をみつめる。



 探す…?
 探すってボタンを…?



そう思った時…俺の脳裏にひらめくものがあった。



そうだ…あの時…
卒業式のあの日…



俺は、この竹林で学生服のボタンを引きちぎって捨てた…
第二ボタンを…



そのボタンは、本当はさとみにもらってほしかった。
だけど、当時の俺はさとみと話すことさえ出来ず、そんな悶々とした気持ちが爆発して、俺は衝動的にボタンを引きちぎって捨てたんだ。



 「ま、まさか…ボタンって…学生服の…」

さとみはゆっくりと頷いた。



 「で、でも…なんで、おまえ、そのことを…」

 「たまたま見ちゃったから。」

 「そうだったのか…」

なんだか気まずい…照れくさい…



「ねぇ…なんであの時、ボタンを捨てたの?」

 「そ、それは……」

 「好きな子に…振られた?」

 「そうじゃない!あれは…!」



 今更、あんな昔のことを言ってどうなるっていうんだ?
さとみにとっても迷惑なことじゃないか。



 (あ……)



だけど、さとみは今でもボタンを持ってるって言った。
それって、もしかして…
いやいや、それは自惚れだ。



 「そうじゃなくて、何なの?」

どうしよう?
 本当のことを話した方が良いのか、それとも…



竹林の中を歩きながら、俺は熱くなった顔をさとみから逸らし、どうしたものかと途方に暮れた。
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