69 / 401
ボタン
1
しおりを挟む
(うわぁ……)
竹林を抜けた先…そこには雑草や木が好き放題に広がっていた。
中学を卒業すると同時に、俺はこの村を離れた。
近くにあった縫製工場が潰れ、両親の職がなくなったからだ。
元々小さな集落だったけど、昔はそれなりに人も住んでて、子供の頃の俺はとても良い所だと思ってた。
何もないと言えば何もない。
だけど、自然に溢れたこの村は、子供の俺にはけっこう楽しい場所だった。
今のこの光景を目の当たりにしても、俺には当時の風景が鮮明に思い出せる。
あそこには風車小屋があって…
あっちは岡垣のばあちゃんの大根畑…
そして、あの木の傍には、犬小屋があった。
茶色の大きな犬が怖くて、俺はそこを通るのが苦手だったっけ。
明日は20年ぶりの中学の同窓会だ。
だから、俺はこの地へ戻って来た。
そして、つい、懐かしくなって、この村を見に来た。
ここはすでに廃村となり、もう何もないことはわかっていたのに…
さぁ、帰ろう…そう思った時、俺は意外な人物と出会った。
「え……さとみ……?」
「こ、浩平…?」
それは、幼馴染のさとみだった。
さとみも俺と同じく、中学卒業と共にこの村を離れた。
子供の頃からまるで兄弟のように育ったが、中学に入ってからなんとなく疎遠になった。
それは、思春期という魔物のせいだったのかもしれない。
俺達が同じ村に住んでるということで、同級生から冷やかされた。
ただ、それだけのことなのに、俺達はよそよそしくなり、引っ越して行く時にも、お互い、さよならの挨拶さえ交わさなかった。
「ひ、久しぶり。
もしかして、明日…行くのか?」
「う、うん…浩平も行くのね?」
「まぁな…」
年甲斐もなく照れてしまい、俺はそっぽを向いた。
さとみはあの頃と違って、とても女らしくなっててドキドキしてしまった。
20年も経てば変わるのも当然なのに。
「元気にしてたのか?」
「うん…まぁね。浩平は?」
「俺もまぁそれなりに…」
他愛ない会話が途切れ、沈黙が流れる。
「なにもかもなくなってるよな。」
沈黙が辛くて、目の前に広がる雑草を見ながら、俺はそう言った。
「そ、そうだね。でも、私…当時のこと、まだしっかり覚えてるよ。」
「俺も…!」
そこから、昔話に花が咲き…
ぎこちなかった会話が、途切れなくなった。
俺達は、子供の頃のように笑い、懐かしい話をお互いに話し合った。
時の過ぎるのも忘れるくらい、夢中になって…
「すいぶん暗くなってきたな。
そろそろ帰るか。」
「そうだね。」
二人で薄暗い竹林を並んで歩く…
あたりが静かなせいか、先程の盛り上がりが嘘のようにふたりとも押し黙っていた。
「……浩平…私、あんたに隠してたことがあるんだ。」
「えっ!?」
不意にそんなことを言われ、俺は目を丸くした。
さとみは、小さく肩を震わせる。
「隠してたことって…」
「ボタン…」
「ボタン…?」
「ボタンって聞いて、何か思い出さない?」
「ボタン…?」
そう言われても、俺には何も思い出すことはなかった。
「やっぱり、忘れてるか…」
そう言ってさとみは意味ありげに笑った。
「何なんだよ、教えてくれよ。」
「私、必死で探して…まだ持ってるんだ。」
さとみはぼんやりと竹林をみつめる。
探す…?
探すってボタンを…?
そう思った時…俺の脳裏にひらめくものがあった。
そうだ…あの時…
卒業式のあの日…
俺は、この竹林で学生服のボタンを引きちぎって捨てた…
第二ボタンを…
そのボタンは、本当はさとみにもらってほしかった。
だけど、当時の俺はさとみと話すことさえ出来ず、そんな悶々とした気持ちが爆発して、俺は衝動的にボタンを引きちぎって捨てたんだ。
「ま、まさか…ボタンって…学生服の…」
さとみはゆっくりと頷いた。
「で、でも…なんで、おまえ、そのことを…」
「たまたま見ちゃったから。」
「そうだったのか…」
なんだか気まずい…照れくさい…
「ねぇ…なんであの時、ボタンを捨てたの?」
「そ、それは……」
「好きな子に…振られた?」
「そうじゃない!あれは…!」
今更、あんな昔のことを言ってどうなるっていうんだ?
さとみにとっても迷惑なことじゃないか。
(あ……)
だけど、さとみは今でもボタンを持ってるって言った。
それって、もしかして…
いやいや、それは自惚れだ。
「そうじゃなくて、何なの?」
どうしよう?
本当のことを話した方が良いのか、それとも…
竹林の中を歩きながら、俺は熱くなった顔をさとみから逸らし、どうしたものかと途方に暮れた。
竹林を抜けた先…そこには雑草や木が好き放題に広がっていた。
中学を卒業すると同時に、俺はこの村を離れた。
近くにあった縫製工場が潰れ、両親の職がなくなったからだ。
元々小さな集落だったけど、昔はそれなりに人も住んでて、子供の頃の俺はとても良い所だと思ってた。
何もないと言えば何もない。
だけど、自然に溢れたこの村は、子供の俺にはけっこう楽しい場所だった。
今のこの光景を目の当たりにしても、俺には当時の風景が鮮明に思い出せる。
あそこには風車小屋があって…
あっちは岡垣のばあちゃんの大根畑…
そして、あの木の傍には、犬小屋があった。
茶色の大きな犬が怖くて、俺はそこを通るのが苦手だったっけ。
明日は20年ぶりの中学の同窓会だ。
だから、俺はこの地へ戻って来た。
そして、つい、懐かしくなって、この村を見に来た。
ここはすでに廃村となり、もう何もないことはわかっていたのに…
さぁ、帰ろう…そう思った時、俺は意外な人物と出会った。
「え……さとみ……?」
「こ、浩平…?」
それは、幼馴染のさとみだった。
さとみも俺と同じく、中学卒業と共にこの村を離れた。
子供の頃からまるで兄弟のように育ったが、中学に入ってからなんとなく疎遠になった。
それは、思春期という魔物のせいだったのかもしれない。
俺達が同じ村に住んでるということで、同級生から冷やかされた。
ただ、それだけのことなのに、俺達はよそよそしくなり、引っ越して行く時にも、お互い、さよならの挨拶さえ交わさなかった。
「ひ、久しぶり。
もしかして、明日…行くのか?」
「う、うん…浩平も行くのね?」
「まぁな…」
年甲斐もなく照れてしまい、俺はそっぽを向いた。
さとみはあの頃と違って、とても女らしくなっててドキドキしてしまった。
20年も経てば変わるのも当然なのに。
「元気にしてたのか?」
「うん…まぁね。浩平は?」
「俺もまぁそれなりに…」
他愛ない会話が途切れ、沈黙が流れる。
「なにもかもなくなってるよな。」
沈黙が辛くて、目の前に広がる雑草を見ながら、俺はそう言った。
「そ、そうだね。でも、私…当時のこと、まだしっかり覚えてるよ。」
「俺も…!」
そこから、昔話に花が咲き…
ぎこちなかった会話が、途切れなくなった。
俺達は、子供の頃のように笑い、懐かしい話をお互いに話し合った。
時の過ぎるのも忘れるくらい、夢中になって…
「すいぶん暗くなってきたな。
そろそろ帰るか。」
「そうだね。」
二人で薄暗い竹林を並んで歩く…
あたりが静かなせいか、先程の盛り上がりが嘘のようにふたりとも押し黙っていた。
「……浩平…私、あんたに隠してたことがあるんだ。」
「えっ!?」
不意にそんなことを言われ、俺は目を丸くした。
さとみは、小さく肩を震わせる。
「隠してたことって…」
「ボタン…」
「ボタン…?」
「ボタンって聞いて、何か思い出さない?」
「ボタン…?」
そう言われても、俺には何も思い出すことはなかった。
「やっぱり、忘れてるか…」
そう言ってさとみは意味ありげに笑った。
「何なんだよ、教えてくれよ。」
「私、必死で探して…まだ持ってるんだ。」
さとみはぼんやりと竹林をみつめる。
探す…?
探すってボタンを…?
そう思った時…俺の脳裏にひらめくものがあった。
そうだ…あの時…
卒業式のあの日…
俺は、この竹林で学生服のボタンを引きちぎって捨てた…
第二ボタンを…
そのボタンは、本当はさとみにもらってほしかった。
だけど、当時の俺はさとみと話すことさえ出来ず、そんな悶々とした気持ちが爆発して、俺は衝動的にボタンを引きちぎって捨てたんだ。
「ま、まさか…ボタンって…学生服の…」
さとみはゆっくりと頷いた。
「で、でも…なんで、おまえ、そのことを…」
「たまたま見ちゃったから。」
「そうだったのか…」
なんだか気まずい…照れくさい…
「ねぇ…なんであの時、ボタンを捨てたの?」
「そ、それは……」
「好きな子に…振られた?」
「そうじゃない!あれは…!」
今更、あんな昔のことを言ってどうなるっていうんだ?
さとみにとっても迷惑なことじゃないか。
(あ……)
だけど、さとみは今でもボタンを持ってるって言った。
それって、もしかして…
いやいや、それは自惚れだ。
「そうじゃなくて、何なの?」
どうしよう?
本当のことを話した方が良いのか、それとも…
竹林の中を歩きながら、俺は熱くなった顔をさとみから逸らし、どうしたものかと途方に暮れた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
花の終わりはいつですか?
江上蒼羽
恋愛
他人はそれを不貞と呼ぶ。
水川 妙香(31)
夫は私に触れようとしない。
女から母になった私を、彼は女として見てくれなくなったらしい。
浅倉 透也(29)
妻に触れる事を拒まれた。
俺は子供の父親というだけで、男としての価値はもうないようだ。
其々のパートナーから必要とされない寂しさを紛らすこの関係は、罪深い事なのでしょうか………?
※不倫に対して嫌悪感を抱く方は、閲覧をご遠慮下さい。
書き初めH28.10/10~
エブリスタで途中まで公開していたものを少しずつ手直ししながら更新していく予定です。

私、のんびり暮らしたいんです!
クロウ
ファンタジー
神様の手違いで死んだ少女は、異世界のとある村で転生した。
神様から貰ったスキルで今世はのんびりと過ごすんだ!
しかし番を探しに訪れた第2王子に、番認定をされて……。

俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる