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海を眺めて

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「ねぇねぇ、どこに行くの?」

 「うん、もうちょっとだから。」

 彼女は、きょろきょろと落ち着かない様子で外を眺めてる。
そんな彼女に、僕はますます楽しくなって来る。



 「あ、海だ!」

 彼女は嬉しそうに声を上げた。
だから、僕はここを選んだんだ。
 彼女が海好きなことを知っていたから。



 「そっか、今日は海の日だから、海に行くんだね!?」

 「う…ん、ちょっと違うけど…」

 「じゃあ、どこに行くの?」

 「うん、あとちょっと…」



 *



 「うわぁ……」

 車を降りた彼女は、呆然と頂上を見上げた。
 無理やりに首を曲げ、40階建てのタワーマンションの天辺を。



 「さ、こっちだよ。」

 「え?」

びっくりしたような顔をしながら、彼女は僕の後を着いて来る。



 「だ、大丈夫なの?勝手に入ったりして。」

 「うん、大丈夫だよ。」

 僕がそう言っても、彼女はまだ落ち着かない様子だ。
 専用のエレベーターは音もなく上を目指して昇っていく。



 「着いたよ、ここだ。」

 着いたのは最上階のペントハウス。



 「え…ここって、何が?」

 「はい。」

 僕は彼女に鍵を渡した。



 「う、うわぁ……」

リビングには、彼女の好きな百合を大量に生けておいた。
 扉を開けた途端に、むせかえるような百合の香りが広がった。



 「まこちゃん、ど、どういうことなの?」

 「新居、買っといた。
ここなら、祥子も気に入ってくれると思って…」

 「か、買ったって、こんなとこ、まこちゃんに買えるはずないじゃない!」



 僕は彼女に嘘を吐いた。
コンビニでバイトしてるって。
それは、ほんの冗談のつもりだったのだけど、そのうち、本当のことが言えなくなって…
彼女と本気で結婚を考えるようになって、僕は本当のことを話そうと思ったけど、それでもなかなか話せなくて、ついにこういう手段に出たんだ。



 「うん、まぁとにかく買えたんだよ。」

 「えっ!も、もしかして、ここって殺人事件とかがあった事故物件で、それで破格に安いとか?」

 「いやいや、何もない。つい最近完成したばかりだし。」

 「えっ、じゃ、じゃあ、まこちゃん…も、もしかして、銀行強盗しちゃったとか!?
だ、だめだよ、そんなこと、あ、早く自首しなきゃ!」

 「うん、だから…銀行強盗もしてないから、落ち着いて。」



 僕がデイトレードで莫大な富を得たことを、今夜はなんとか話さなきゃ。



 「祥子…僕と結婚してくれるよね?」

 僕は、ポケットの小箱から指輪を差し出した。



 「え…?そ、それはもちろんそのつもりだけど…でも、その前に…」

 僕は彼女の薬指に、ダイヤの指輪をさした。



 「まこちゃん、これ…何?水晶?すごく綺麗だね。」

 指輪を見ながら祥子が訊ねる。



 「うん、ま、そんな感じかな。
あ、祥子…ほら!ごらんよ、海がきれいだよ!」

 僕はベランダに出て、彼女を手招きした。



 「わぁ…すごーーーい!
ここにいたら、毎日が海の日だね!」

 無邪気にはしゃぐ祥子に、つい頬が緩む。
なんだかえらくあっさりしたプロポーズになってしまったけど、こういうのも悪くない。
 海は青くてきらきらしてて…潮風が気持ち良い。
いつまでもふたりでこんな風に海を見られたら良いなって、そんなことを思った。

 
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