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帰郷

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(この景色も見納めか…)



ガタガタと揺れる路面電車からの風景は、毎日のように見ていたから、見慣れるどころか見飽きたはずだったのに、今日はなぜだか新鮮に見える。
 特に変わったものもない、車の波と行き交う人々と、いつもの空なのに…



(みんな、きっと驚くぞ。)



 傍らに置いたかごには、新鮮な朝採り野菜がいっぱいだ。
アスパラガスに、ブロッコリー、もやしにはくさいにじゃがいも、にんじん…
みんなの笑顔が頭に浮かぶ。



 終点の駅に着いてしばらく歩くと、迎えの車が待っていた。



 「久しぶりだな、ジョシュア。」

 後ろに乗り込むと、鏡越しに僕を見て運転手がそう言った。



 「君は…えっと……」

 「なんだ、忘れたのか?オリバーだよ。」

 「あ、そうだったな。悪い、悪い。」

 車は滑るように走り出す。



 「今日、帰るんだって?」

 「あぁ、今日で任期が終わったんだ。」

 「長い間、お疲れ様。」

 「ありがとう。」

 車は、でこぼこの山道を走って行く。
この不快な揺れの感触も、貴重な思い出だ。



 真っ暗な山道を延々と走り…車は山肌に突然現れた光のアーチに進んで行く。
そこをくぐった途端、目が眩むような光を感じ、次の瞬間、車は違う場所に転送されていた。



 広い格納庫の中には、何機もの宇宙船が整然と停まっていた。



 「じゃあな、ジョシュア。
あ…その名前も今日でおしまいか。
あんたの本名はなんていうんだ?」

 「……ジョシュアで良いよ。」

オリバーに手を振り、僕は宇宙船に向かって歩いて行った。
 今日、任務が終わるのは僕だけではないはずだ。



 「ジョシュア・マイルズです。」

 僕は、認識票を差し出す。



 「長い間、お疲れ様。
さぁ、中へ…」



サロンには、すでに数人の同胞達がいて、和やかに談笑していた。
 皆、僕と同じく、今日で100年の地球の調査を終えた者ばかりだ。



しばらくして、乗員の揃った宇宙船は、空へと飛び出した。
 暗い闇を抜け、大気圏を抜け…ついさっきまで私が住んでいた愛しい星が、どんどん小さくなっていく。



 青い星を見ていると、様々な思い出に寂しさが募る。



 (地球に赴任することが決まった時は、あんなにいやだったのに…)



そんな事を思うと、僕の顔にはほろ苦い笑みが浮かんだ。



 (さようなら…またいつか会えると良いな…)



ワープと共に、青い星は見えなくなり、僕のセンチメンタルな気分もどこかへ吹き飛んだ。
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